医師の言うことをよく守る患者と、守らないわがままな患者。どちらが長生きか

がん治療にあたっている医師が、面白いことを言っています。

がん患者には大きく分けて2種類のタイプがあるそうです。1つ目は、医師の言うことをよく守ってくれる患者さん。2つ目は、医師の言うことを守らないわがままな患者さん。

同じがん患者ですが、後者のほうが長生きをするというのです。これには明確なエビデンスはありませんが、どうも間違いないようです。

医師である私は、「医師の指示をまじめに聞く必要はない」とは言い難いのですが……。「○○はやってはいけません」という指示をまじめに聞いて自分の中でストレスをため込むよりは、やりたいことをやって発散させたほうがいいようです。

これまでの研究で、がんの発症と心理的要因とには直接的な関係がないことがわかっています。しかし、がんと宣告された予後に関していえば、心理的要因が影響をするようです。がんと言われた後、多くのソーシャルサポートを受ける人、前向きにとらえることのできる人、怒りをはじめとする負の感情を持たない人は、予後が良いケースが多いのです。がんと言われて不安になり日々を恐れて過ごすよりも、気分を切り替えてパッと楽しく暮らす人が、長生きできるのです。「人生を楽しむ」ことは、長生きの秘訣でもあるのです。

40歳から69歳の日本人男女8万8175人を対象にした調査があります(Shirai K, et al Circulation, 2009)。生活を楽しんでいるかどうかを尋ねたうえでの追跡調査で、「楽しんでいない」と回答した人は、「楽しんでいる」と回答した人に比べて、12年間に循環器疾患で亡くなるリスクが2倍近いということがわかったのです。

人生を楽しむことが大切だとはわかっていても、実際には、年齢を重ねていくにつれて、やりたいことを我慢することが増えていくでしょう。医師から指導を受けたり、あるいは健康常識にのっとって、食べるのを我慢したほうがいい物が増えたりします。また、「いい年をしてこんなことをやったらみっともない」という自制の気持ちが働いて、やりたいことを我慢することもあるでしょう。

好きな食べ物についての我慢ということでしたら、トレーディングという方法をとればいいと思います。

たとえば「塩分を減らしてください」と指導されても、塩気のあるものを食べたいという人がいることでしょう。そういう人はカリウムやカルシウムをたくさん摂取することで、塩分を体外に排出しましょう。野菜や海藻、豆腐などをたくさん食べるのです。体に良い物を摂ることで、悪い物を摂ったことを相殺するというやり方です。

カロリー摂取量を減らすよう指示されても、どうしても甘いものを食べたいという人もいるでしょう。そういう人は運動をしてカロリー消費量を上げて相殺するといいでしょう。

食べ物以外のやりたいことへの我慢はどうでしょうか。

深酒やヤケ酒は勧められませんが、適度な飲酒はむしろ循環器疾患を予防する効果も期待されます。

ただし、一人で飲むことはできるだけ避けたほうがいいです。一人で飲むのと皆でワイワイと盛り上がって飲むのとでは、脳卒中発症のリスクが異なるからです。一人で飲む場合は、皆で飲むときと比べ、少量のアルコールでも脳卒中リスクが高くなるのです。これは明るく人と話すことで、ストレスを健全に発散できるからだと考えられています。

公的なギャンブルや法律の範囲内の性風俗を楽しむことも、問題はありません。それでストレスをうまく発散すればいいのです。

とはいえギャンブルに関しては、依存症になりやすいタイプの人がいますので注意が必要です。飲酒について適切な量を守ることが大事なように、ギャンブルも適度に楽しんで終わることができるかどうかが大事です。

性風俗も、パートナーのいるいないで異なってくるでしょう。ただ「性」というものは、人間にとって大切な本能であることは間違いありません。