阪神タイガースの熱狂的なファンと一緒に大声で応援するうちに、うつが治った

前述の福島県の被災地域での調査で、興味深い点がありました。被災地域の人は他の地域の人と比べ、笑いは少ない、ストレスは多い、過食気味、不眠に悩むなど多くの違いが見受けられました。しかし「異性への興味」だけは、他の地域の人と変わらなかったのです。それだけ「性」は、人間にとって大事な本能的欲求といえるでしょう。その本能が失われることは、よほどのこと。生命維持能力が落ちてきていることだと思います。

負の感情をため込まないためには、一時的に脳を“からっぽ”にしてリセットすることが大切です。そのための方法をいくつか紹介します。

まずは、大声で笑うこと。クスクス笑いではなく、大笑いです。

山形県の40歳以上の男女1万7152人を5年以上経過観察した調査によりますと、「月に1回未満しか声を出して笑わない人」は、「週に1回以上、声を出して笑っている人」と比べ、5年後に亡くなる確率が2倍近くにアップしたのです(図3。Sakurada k, et al. J Epidemiol. 2019)。

【図表】笑いの頻度と死亡との関係

反対に泣くことも、負の感情を発散させる効果があります。これも笑いと同じように、シクシクシクシクと考えながら泣くのではなく、頭をからっぽにさせるような大泣きがお勧めです。

カラオケで絶叫するように歌うことも、脳のリセットに役立ちます。

私が行っている方法は、運動です。1時間ほどかけて10キロメートルくらい走るのですが、ちょっと苦しくなってくると何も考えなくなるのですね。そうなると本当に気持ち良くなってくるのです。

スポーツ応援やいわゆる“推し活”も、脳のリセットに役立ちます。

2年間ほどうつで悩んでいた人が、あるときから阪神タイガースのファンになり甲子園球場に通うようになりました。熱狂的なファンと一緒になって大声で応援するようになったところ、うつが治ったというのです。応援に熱中する間、日常のことを忘れることができた効果でしょう。

同じように、韓国俳優のファンになって“推し活”をしたところ、うつが良くなったという女性もいます。

非日常空間に身を置くということが、日常生活を忘れ、負の感情のリセットに役立つわけです。

映画を観たいと思ったなら、映画館に行きましょう。自宅でDVDや配信動画を観ていてもリセットにつながりません。同じように、ちょっと高級なレストランでの食事も大切です。どんなに美味しい料理であっても、取り寄せたりテイクアウトをして自宅で食べたのでは、日常の延長にすぎません。おしゃれをして高級レストランのテーブルで食べてこそ、意味があるのです。旅行をするなら、日帰りではなく宿泊を伴うものにしましょう。

自分が日常を忘れてまで熱中できるものはなにか。それを見つけて、我慢することなく楽しむ。それこそが健康を招いてくれるのです。

(構成=菊地武顕 図版作成=大橋昭一)
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