南アフリカ戦の大金星は「練習より簡単だった」

我々は議論の末、インターナショナルなラグビーの世界では、タフで激しく肉体がぶつかり合う試合を戦わなければならないため、練習もその激しさに耐えうることを目的にしなければならないという考えで同意した。私は厳しい練習を通じて選手たちに世界の強豪に勝つための方法を与えていた。極限の状況に対処できるよう、彼らを肉体的、精神的に鍛えていた。

日本代表はそれまで24年間、ワールドカップで勝っていなかった。だが南アフリカ戦では勝利に向けて一致団結した。試合終了間際、ペナルティキックで32対32の引き分けに持ち込める状況のなかで、選手たちは勝つためにトライを狙いに行った。それができるだけの力を身につけていたからだ。試合終了後、キャプテンのマイケル・リーチは私に言った。「練習より簡単だったよ」

私はこの瞬間を誇りに思った。ここ一番の戦いに備えて、選手たちにハードワークを課すことが私の仕事だからだ。選手たちは大舞台でのラスト1分の白熱した戦いをある意味で楽しんでいた。厳しい試練とトレーニングで、鍛えられていたからだ。ビジネスで難しい会議に臨む場合も同じだ。プレッシャーに耐えられないなら、準備が不足しているということだ。

健全な対立意識がチームを逞しくする

我々は長い時間をかけてチームを鍛えた。ハードに、そしてスマートに。まずは午前5時、10時、午後3時から、1日3回練習をした。当初、選手たちはそれを嫌がった。4時30分にプロテイン・シェイクを飲むには、4時15分に起きねばならず、寝過ごすのが心配でぐっすり眠れなかったからだ。

エディー・ジョーンズ『LEADERSHIP』(東洋館出版社)
エディー・ジョーンズ『LEADERSHIP』(東洋館出版社)

彼らは葛藤とストレスを感じていた。2週間の高地キャンプのときは、1日5回の練習を行った。1日3回のサイクルに戻したときには、選手たちは練習を楽にこなせるようになっていた。大会本番を迎えるころには、逆境と不安に耐えうる逞しさが備わっていた。

今では日本の多くのチームが午前5時から練習している。はっきりとした理由があるわけではなく、とにかくそうすることが正しいと考えているのだ。もし私がまた日本のコーチに戻ったら、この新しい伝統をとりやめ、何か別の方法を探すだろう。選手にもチームにも、何か特別だと感じるものを見つけて、他とは違うことをしていると感じさせたいからだ。

そのためには、健全な対立意識と、この章で説明してきたことを受け入れる必要があるのだ。

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