「W杯優勝」ではなく「チームを世界一にする」

日本人のハーフで、強いオーストラリア訛りの英語を話す私と、イングランドのラグビー界とのあいだにはたしかに文化的な違いがある。だが、それを夢の実現の妨げにしてはならない。オーストラリア人の私がイングランドのラグビー代表チームのコーチをするという皮肉な現実には、今でも時々思い出しては笑ってしまう。だが難しいとわかっていたからこそ、私はこの仕事に魅力を感じて引き受けた。

私はイングランド代表のヘッドコーチを務めた最初で最後のオーストラリア人になるかもしれない。なぜなら、スポーツマンとしての我々の思考パターンは正反対だからだ。

2015年、私には変化を起こす勇気が必要だった。イングランドラグビーの伝統は受け入れつつ、このチームを行き詰まらせているマインドセットを変革するための戦略を立てなければならなかった。

私は何かと摩擦を引き起こしがちな自分の性格をうまくコントロールしながら、イングランドのラグビーを軌道修正していった。それを4年続け、チームはかなりの成功を収めた。記録によれば、私はイングランド代表の歴代コーチのなかで国際試合での勝率が最も高い。しかし、それでもワールドカップ優勝という夢にはあと一歩届かなかった。

そして今、前の4年間よりもさらに大きな夢を描くときが来た。この新たな4年間のサイクルの始まりに際し、私は具体的な目標を掲げて、ビジョンをはっきりと描いた。

それは、「イングランドを世界一のチームにする」だ。

限界が設けられていないビジョンを掲げる

ビジョンは決まった。このビジョンを追い求めるうえで何よりも刺激的なのは、限界が設けられていないことだ。どんなコーチやチームも、短期的な成功なら収められるだろう。だが、偉大さの本質は成功を続けることだ。我々は果てしない高みを目指して、向上と勝利を続けていく。ワールドカップ優勝は大きな目標だが、夢はそこに留まらない。

最終目標は明確に定まった。我々は、ラグビー史上最高のチームになるために最大限の努力をする。