猛烈な反対に遭った「障害者自立支援法」

さて、最後の失敗談は、厚生労働省で40代の課長として障害者福祉の仕事をしているときのことです。

当時、私は障害者自立支援法という新しい法律作りに携わっていたのですが、この法律は当事者団体から猛烈な反対に遭っていました。なぜなら、障害者が福祉サービスを受けた場合、1割の自己負担を求めるという法律だったからです。これは確固とした財政基盤を作るために不可欠の仕組みでしたが、当事者団体の代表から言われた言葉をいまでも忘れることができません。

「飯を食うにも、排泄をするにも金を取るのか?」

その通りです、としか言いようがありませんでした。重度の障害を抱えた方は、介助がなければ食事も排泄もできません。所得の低い方には免除措置があるとはいうものの、財源確保のために、障害のある方々からお金を取ろうとしているのは紛れもない事実でした

しかし、私はこう考えていたのです。

医療保険の世界でも介護保険の世界でも、一定の自己負担をお願いしています。病状が悪化したり要介護度が上がったりすれば食事にも排泄にも介助が必要になり、どちらの場合も一定のお金を取っている。なのに、どうして障害者だけは別だというのだろう。もし、別だというなら、その根拠を障害者自身が説明するべきではないか?

正論をぶつけて議論に勝とうとするのが未熟だった

障害者自立支援法は、大反対のなか2005年の10月に成立しました。当事者団体に疑問をぶつけて、議論に勝って、「村木さん、あなたが正しい」と認めてもらって法案を進めるというやり方もあるのではという思いがありました。しかし、私の中の何かが、当事者に向かって「どうして障害者だけが違うのか説明してほしい」と質問するのを思いとどまらせたのです。

それから何年もの間、私は自分の問いは間違っていたのだろうか、本当は相手に問いをぶつけるべきではなかったのかと、事あるごとに思い出しては自問してきました。そしてようやく最近になって、当時の自分の未熟さに気がついてゾッとしたのでした。

質問の中身自体は間違ってはいなかった。しかし、明らかに「問いの投げ方」を間違えていたのだと思います。この質問を障害者に投げつけることは、障害者の問題なんだから障害者が答えを見つけなさいと突き放すこと、障害の問題を「他人事」にしてしまうことでした。本当に、あの時、この言葉を口に出さなくてよかったと思います。おかげで、障害者団体の方々との関係を壊さずに済みました。