「厳しいしつけ」の問題点

これは親の子育てスタイルの方に問題があるということになります。逆に言えば、子育ての仕方をもっと冷静に見直して、子どもが不注意だったり多動であったりしたからといって、むやみやたらにしつけを厳しくしすぎないようにすれば、問題行動もある程度抑えることができる可能性があるのです。

多動・不注意傾向の高い子だからということで「悪い子」であると決めつけるのではなく、問題行動をしでかしてしまった子どもの事情を冷静にくみ取る努力をし、そのうえで善悪の道理を示していくことが肝要なのではないかと思われます。

一方、多動・不注意傾向の低い、その側面では健常の範囲内にある子どもの「悪さ」はどう考えればよいでしょうか。その場合、子ども自身のもつ問題行動の遺伝的傾向が高いほど、それに即して親の厳しい態度が導かれているという要素が、親自身の作り出す厳しさが子どもの問題行動を助長させるという要素よりも強いと考えられます。つまりそれは問題行動に対するしつけとして厳しくなるのは当然であるといえます。

机の上でうつ伏せになる少年と励ます両親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

悪いことは悪いというメッセージは、子どもの多動・不注意傾向の高低にかかわらず、子どもには知識として教えなければなりませんが、同時に子どもが「悪さ」をしてしまう状況、すなわちその子特有の非共有環境が何かを見極めて、その状況に陥らないように環境を整えてあげることも必要になってくるでしょう。

たとえば好きなものをきょうだいと分けあわなければならないときに、自分のことしか考えずに乱暴になってしまうことが多いとしたら、あらかじめ一人ひとりの分を分けておいて、一人ずつ渡すようにするというように。

幼少期の親子の愛着には遺伝要因がほとんどない

どんな行動の個人差にも原則として遺伝の影響があるというのが行動遺伝学の第一原則ですが、例外があります。それが乳幼児期の子どもと親との愛着のあり方で、これには珍しく遺伝要因がほとんどありません。

愛着、つまり子どもが親や大人に対して示す安定した心理的な距離の取り方は親のかかわり方が非常にものをいうようです。子どもは親から引き離されると強い不安を感じます。そこで親と再会するとき、多くの子どもは親と会えたことで安心感を得て、親に抱かれ落ち着きを取り戻します。

しかし子どもによっては、親と再会しても親を拒絶しようとしたり、いつまでも機嫌が悪いままでいたりします。ここで子どもの見せる母親との安定した関係の取り方を一卵性と二卵性で比較すると、その類似性がほぼ同じで、共有環境が70%近くになります。これはふだんの子どもとの関係で築かれた安心の基地としての親の接し方がどのようなものだったかがかかわっていると思われます。