「良い子に育つかは親次第」は本当か

勤勉な子ども、活発な子ども、心根の優しい子どもに育てるのは親の責任と、多くの育児書には書かれています。しかし子どもはそのパーソナリティを、親から教わって、あるいは親の背中をみて学んだのではないのです。

もし子どもがこれらのパーソナリティや発達障害を、親の示すふるまいをお手本にして、無意識にでも真似まねして学んでいたとすれば、同じ親に育てられた二卵性双生児は一卵性双生児と同じくらい似るはずですが、そうなっていないのがその証拠です。

さらに一緒に育ったふたごと別々に育ったふたごのパーソナリティの類似性を比較しても大差はありません(*5)

【図表5】一緒に育ったふたごと別々に育ったふたごのパーソナリティ類似性
図表作成=師田吉郎
一緒に育ったふたごと別々に育ったふたごのパーソナリティ類似性

こうして遺伝の影響を強調すると、パーソナリティや精神疾患や発達障害は遺伝によって決まっていて、環境ではどうしようもないと思われがちですので、そういう意味ではないことも同じように強調しておかねばなりません。

これらの図が同じく示しているのは、同じ環境で育った一卵性双生児ですら、完全な一致を表す相関係数1からはほど遠い0.5ぐらいで(自閉症とADHDはそれより大きいですが)、非共有環境が大きいということです。

(*5)Tellegen, A., et al.(1988)Personality similarity in twins reared apart and together, Journal of Personality and social Psychology, 54(6):1031-1039.

状況によって性格は変化するもの

非共有環境とは、同じ家庭で育っても一人ひとりが家の内外で行う異なる経験、それによって遺伝子を共有する家族でも互いに似させないような環境の影響の総体をさします。それが個人の中では安定して続く環境であることもありますが、その多くは主としてその場限りの一時的な環境、たまたま出会った状況のようなもので、とても変わりやすいものです。

自分は人見知りだと思っている人も、それは初めて出会った人や苦手な人の前で引っ込み思案なのであって、親しい人と一緒ならそれほど引っ込み思案にはならないでしょう。一方、自分は社交的で人怖ひとおじしない性格だと思っている人も、ふだん会うことのない怖そうな上司とエレベーターでばったり二人きりになったら、多少なりとも物怖ものおじしてしまうでしょう。

人見知りの程度には遺伝的なセットポイント、すなわちその人がもっとも自然にとりやすいレベルが人それぞれにありますが、そのセットポイントを中心として、状況に応じてかなりの程度上下に変動します。勤勉性や協調性などは、ある程度自分の意思でコントロールもできるでしょう。