社会で活躍するチャンスが与えられない女性

――実際にはGoogleやAmazonのような世界的企業でもほとんどトップは男性で、日本の大企業もほとんどが男性です。ユヌス博士はこのような状況をどのようにお考えですか。

私は男性だとか女性だとか分けて語るつもりはありません。この場合、すべての人間が起業家なわけで、男女を区別してはいません。

とはいえバングラデシュでは、銀行で門前払いを食らうのは貧しい人々に限った話ではなく、あらゆる階級の女性、たとえ裕福な女性でも門前払いされてしまいます。

女性が相手だと、銀行のマネジャーは「ご主人に相談はしましたか? ご主人とお話がしたいので、連れて来てもらえますか?」と言うのが常です。でも男性がビジネスプランを手に会いに来たとしたらどうでしょう。「奥さんに相談しましたか?」とか「奥さんと話がしたいので一緒に連れてきてもらえますか」なんて聞かれたりはしないでしょう。これはどういうことでしょうか。

つまりバングラデシュの銀行システムは貧しい女性たちだけでなく、すべての階級の女性に門戸を閉ざしているのです。無理だと言われてしまう。だから私は女性への貸し出しに力を入れようと考えました。

また、同じ金額を貸すのであっても、男性よりも女性を通して家族に金がもたらされたほうが、家族への影響はずっと大きくなることがさまざまなケースで何度も確認されました。女性に貸すほうが子供や家族の利益になるのです。男性は家族よりも、自分の楽しみを、自分のケアを、友人たちと楽しむことを優先したがる傾向があります。

それを目の当たりにした私たちは、男性に貸して金の無駄遣いをしてはいられない、女性に貸すべきではないかと考えました。女性を優先することに力を入れようと私は提案し、ついには(借り手の)97%が女性になりました。

ムハマド・ユヌス博士
撮影=堀隆弘
ムハマド・ユヌス博士

女性に投資すれば経済規模が2倍になる

――日本では30年間不景気が続いていますが、銀行が女性に投資すれば変わるでしょうか。

先ほどすべての人間は起業家だとお伝えしました。つまり女性を除外したら、起業家は半分に減ってしまうということです。

女性の起業家たちがどれほどうまくやっているか見てみればいいのです。特殊な例を持ち出しているわけではありません。まずは女性は男性と同じ人間であることを受け入れるべきです。同じ人間だということは起業家だということであり、本人たちの扱える範囲内で便宜を図っていくべきだし、それが経済全体にとって利益になります。

創造性あふれる女性起業家たちが市場に参入すれば、経済規模はいきなり2倍に成長しますよ。