富裕層向けプログラムの中身

諸外国での事例に倣って、わが国においても国立公園の利活用の促進が政府によって検討されていますが、ここで立ちはだかるのが法律の壁であり、「広く市民に開かれているべき自然資源が一部の高額拠出者だけに提供されること」をよしとしない社会的な風潮でありました。

しかし政府は、コロナ禍によって低迷した観光産業を新たな成長路線に乗せるためには国立公園の利活用が必要であるとして法改正を断行。2021年に自然公園法を改正し、国立公園や国定公園の保護とその利用の好循環を促すため、地方自治体や関係事業者が主体的に進める公園の利活用に関して手続きの簡素化や許可不要の特例を設ける制度を導入しました。

環境省はこの8月に、今回の法改正に基づいて指定される「先端モデル地域」として十和田八幡平国立公園の十和田湖地域(青森県、秋田県)、中部山岳国立公園の南部地域(長野県、岐阜県)、大山隠岐国立公園の大山蒜山地域(鳥取県、岡山県)の3カ所を候補とする方針を発表。

来春までにここからさらに1、2カ所に絞り込んだ上で、区域内への高級ホテルの誘致と共に、当該宿泊施設を利用しながら上質な自然体験ができる富裕層向けのプログラムの開発を始めるとしています。

収入を得られる機会を逃してきた

今回実施された国立科学博物館のクラファンは、一部の高額支援者を対象に、バックヤードツアーの実施や未公開の電気自動車や飛行機の試乗など、さまざまな特典を提供するものとなっています。

国立科学博物館本館
写真=iStock.com/Korekore
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一方で、この実施は通常の実施ではなく、あくまで博物館法の定める「特別な事情のある場合」の規定に基づき「コロナ禍の影響や光熱費の高騰によって今のままではサービスを維持できない」という名目で寄付を募る形式になっています。

しかし、この種の施策は諸外国の文化施設では当たり前のように行われています。今回の「国立科学博物館がクラウドファンディングで1億円を集めた」というニュースは美談ではなく、それだけの自己収入を得られる機会をこれまで逃してきたという話です。このような博物館側の自主的な取り組みを封じてきたからこそ、国立科学博物館「ですら」財政危機に陥ってしまったというお話でしかありません。