終末期医療という正反対の立場だが…

先日、知人から「専門外であることは承知の上だけど……」との前置きで「無痛分娩ぶんべんについて、その是非とかかるお金にかんして、ファイナンシャルプランナー(FP)資格を持つ医師としての意見を聞かせてほしい」と頼まれました。たしかに私は産科医でも麻酔科医でもないので、門外漢であることは間違いありません。

椅子に座っている妊娠
写真=iStock.com/west
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また新しい生命の誕生ではなく、人生終末期の医療に主として携わる医師ゆえに、いわば正反対の現場に身を置いているともいえます。しかし、今後の超高齢社会を乗り越えていくにあたっては、少子化対策についても無関係・無関心ではいられません。むしろ「子どもを産み育てやすい社会」にかんしては積極的に議論に参加せねばならない立場ともいえるでしょう。

そうした観点から、本稿では、今回の質問をもとに、無痛分娩とそれにかかる費用負担のあり方、今後の方向性と議論されるべき問題点について、あえて非専門医としての私見を述べてみることにしたいと思います。

無痛分娩は本当に「贅沢」なのか

ご存じのとおり、現在、正常分娩については「病気ではない」との考え方のもと健康保険は適用外です。そのかわりに「出産育児一時金」という給付によって、出産にかかる費用負担を軽減する仕組みが存在しています。この給付金額は近年、分娩費用の上昇や産科医療補償制度(※)、さらに少子化対策の意味合いからも引き上げられており、直近では一律50万円の給付(一部医療機関を除く)となっています。

※産科医療補償制度:出産時になんらかの理由で重度脳性麻痺となった新生児とその家族のための補償制度であり、病院、診療所や助産所といった分娩を取り扱う機関が加入、分娩機関に過失がなくても補償金が支払われるもの。家族の経済的負担をすみやかに補償するとともに、脳性麻痺発症の原因分析を行い、同様事例の再発防止に資する情報を提供、これらによって紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることを目的とする。

今回の知人からの質問は、正常分娩の場合、健康保険の適用はないにせよ、こうした給付がある一方で、無痛分娩を選択した場合には施設によって異なるものの10万円前後がさらにかかるという現状について、「無痛分娩は贅沢なものなのか」というものでした。そして「出産するにあたっては耐えがたい痛みを味わうのが前提となるのか」との疑問も併せて示されたのです。