クローズド化の波は、従来のオープンSNSにも押し寄せています。インスタグラムは、親しい友達にだけシェアすることができる「ストーリーズ」機能をいち早く追加。これは、アメリカで人気のクローズドSNSのひとつ、Snapchat(スナップチャット、略称スナチャ)の台頭に対処するための動きでした。2022年にはTwitterも、公開範囲を制限できるサークル機能を付けました。
閲覧できる人を限定する「鍵アカ」も多くなっています。2020年の調査によると、Z世代はインスタグラムのアカウントを平均2.3個持っているそうです。1個は鍵をかけず、キラキラした自分を不特定多数に発信するためのアカウント。もう1個が、鍵をかけて、仲の良いリアルの友人とだけ気楽に交流するためのアカウントです。
共有していれば「傷つかずに済む」
「仲良くなりたいならアプリなんてやっていないで、電話でもかけて一緒に遊びにいけばいいのに」と昭和世代の人たちは思うかもしれません。
しかし、自己肯定感が低く、親しい相手にも過度に気を使い、傷つきやすいのが今の若者の特徴です。邪魔したくないから、電話はしない。誘って断られたら傷つく。傷つきたくないからこそ、クローズドSNSのニーズがあるのです。
相手の位置情報や状況を自分のスマホで把握できれば、「家にいるってことは、今なら遊びに誘っても断られづらいかな」「近くに来てるなら声かけてみようかな」というように、できるだけ相手に迷惑をかけないようにしながら、OKをもらえる確率を高めたうえで、連絡を取ることができます。
あるアプリ開発会社の知り合いが、こうしたアプリの特性を「計画的セレンディピティ」と表現していました。セレンディピティとは「偶然の産物」との意味です。一見矛盾する造語ですが、できるだけ断られずに、傷つかずに遊びに誘いたい若者には、こうしたアプリが不可欠なアイテムなのだと感じます。
アプリを使った「裸の付き合い」
クローズドSNSは、ゲーム性が高いのも特徴です。時間制限のあるBeReal、友達と一緒にモンスターと戦うHabitica、友達のスマホ画面にドッキリを仕掛けられるTapNow……。ゲームをするかのようにSNSをすれば、傷つく危険を冒してまで遊びに誘わなくても、相手の時間を長く奪わなくても、一緒に遊び、友情を深めることができます。
コミュニケーション方法は違えども、広く浅い人間関係ではなく、深いつながりが欲しいのは、いつの時代も変わりません。昭和風に言うと、「裸の付き合いがしたい」。クローズドSNSの流行からは、こうした若者の心理が見えてきます。