定年退職を迎えると、夫婦で一緒に過ごす時間が増える。この変化は夫婦にとってプラスになるのか、マイナスになるのか。心理学博士の榎本博明さんは「60代になると妻と夫の愛情度に大きな差ができてしまい、互いに居心地が悪くなるケースが多い。夫婦円満に過ごす秘訣は、共通の趣味とプレゼントだ」という――。

※本稿は、榎本博明『60歳からめきめき元気になる人』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

関係の困難
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「退職後は妻と楽しく過ごそう」と思ったのに…

退職したら、会社でなく家が自分の居場所になるし、家で妻と一緒に楽しく過ごそう、これまでは仕事で忙しくて妻と過ごす時間があまりもてなかったけど、これからは一緒に趣味を楽しんだり、旅行したりして、妻との老後を楽しもう。そんなふうにのんきに考えていたのに、いざ退職して家にいるようになると、そのような期待は見事に裏切られるといったケースが少なくないようだ。

妻を外食に誘っても、散歩や買い物に誘っても、「私、いいわ、行くなら一人で行って」と断られる。旅行に行こうと誘っても、同じく断られる。そこで初めて自分が拒否されていることに気づく。

心理学の調査などでは、新婚時には夫の愛情と妻の愛情に差はないのだが、時の経過とともに夫の愛情度はそれほど低下しないのに妻の愛情度は低下し続け、定年退職時には大きな差がついているというデータが示されている。

まさかの「粗大ゴミ」「産業廃棄物」扱い

配偶者が生きがいの対象だとする高齢者の比率は、妻は夫の半分以下だというデータもある。妻は夫よりも家族以外の友人との交流を楽しむ傾向が強いようである。

それには、夫の場合、仕事に追われ職場の人間関係中心に生きてきたため、プライベートな友人関係が妻よりも薄いということが関係しているのだろう。実際、「女子旅」などといって年輩の女性同士が旅行する姿はよく見るが、「男子旅」はあまり見かけない。

仕事が生きがいだった夫の場合は、たとえ「亭主元気で留守がいい」などといった扱いを受けていても、仕事に没頭しているときは、自分がそうした扱いを受けていることに気づかないことが多い。

ところが、定年退職して、昼間も家にいるようになり、ようやく自分が疎外された存在であることに気づいて愕然とするのである。しかも、一生懸命に働いて家族を養ってきたつもりなのに、粗大ゴミとか産業廃棄物とか濡れ落ち葉などと言われる立場に自分が置かれているわけである。やるせない気持ちになるのも当然だろう。