プーチンもゼレンスキーも戦いを止めない

――ロシアの軍事力についてはどう評価していますか。

「ロシア軍が強かったか? 弱かったか?」と聞かれれば、「弱かった」と言えるかもしれません。「われわれが恐れおののいていた、あのソ連軍はどこに行ったの?」という印象は、世界中の専門家が持っていると思いますね。

プーチン大統領からすれば、軍の幹部からの報告で、ロシア軍が侵攻すればウクライナはすぐに総崩れになり、ウクライナ人からロシア軍は花束を持って迎えられるだろうと思っていたわけです。その意味では完全な誤算です。

ただ、私は先ほど、ロシア軍は「弱かった」という表現を使いましたが、反転攻勢をしのいでいる点などから見て、「やっぱり足腰は強い」というのが、最近の私の印象です。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領にとっては、奪われた領土を奪還してロシアと停戦協定を結び、その協定が破られた場合に備えて、各国から安全の保障を得ること、できれば、NATOに加盟することによって保証を得るというのがベストなゲームプランです。

ゼレンスキー大統領も、ロシアに占領された地域に住む人たちの生活を取り戻すまで戦いを止めることはないと思います。

土地の支配を巡るロシア・ウクライナ戦争
撮影=西田香織
土地の支配を巡るロシア・ウクライナ戦争

「外交だけでは解決しないことがある」という教訓

――ロシアとウクライナの戦争を振り返ると、外交だけでは抑止できない難しさがあると感じます。

国と国との利害が一致していることはほとんどなく、何らかの利害の対立はあるわけです。その利害の対立は、外交という取引で調整できるものなのか、あるいは、武力を使わないと前に進めないのかというところが、戦争になるかならないかの分岐点になります。

利害の不一致の幅の大きさもありますが、お互いの見通しも関係します。「戦えば勝てる」と踏んでいたら、変に妥協するよりも「戦って取っちゃった方がいい」という考え方になりますし、「戦っても取れない」と思えば、外交的に「どこかを譲ってどこかを取る」という考え方に変えることもあります。

とはいえ、外交だけで現状を変えられることはほぼなく、利害の不一致の幅が大きくて、軍事力にも差があれば、現状を変えようとする側は、残念ながら武力に訴える可能性が高いです。

ロシアとウクライナの戦争は、「外交だけでは解決しないこともある」と、あらためて示した例と言えるでしょう。

いくら「防ぎたい」と思っても、相手が戦争を仕掛ける気満々であれば、外交や経済だけでは防げません。特に日本の周りには、安全保障上の不安定要因が多くあります。平和に生きるためには、防衛力、軍事力が必要になると思います。