中国の侵攻にアメリカが介入する台湾有事

現在、この種の遠征作戦として想定されるシナリオの代表例が、台湾海峡有事である。もし中国が台湾に侵攻した場合には、米国が軍事介入を行って台湾を防衛しようとする可能性があり、現在こうした有事が発生する可能性が深刻に懸念されている。

アジアのマップ
写真=iStock.com/samxmeg
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中国は、米国の介入に備え、「接近阻止・領域拒否能力」と通称される戦力の整備を進めている。これは、弾道ミサイルや巡航ミサイル、あるいは潜水艦などからなり、台湾の支援のために域外から展開してくる米軍を、台湾に到着する前に物理的に阻止する能力である。

特に技術の発達による精密誘導兵器の拡散により、こうした能力の効果が増大してきており、遠征作戦の実行そのものが難しくなっていると考えられるようになった。そのため、米国では、あらかじめ一部の部隊を紛争が予想される地域に事前展開させておくことで、域外からの遠征作戦のリスクを減らそうとする「スタンドイン」といった作戦構想が考案されている(※1)

(※1)U.S. Marine Corps, Department of Navy, “A Concept of Stand In Forces,” (December 2021)

土地の支配を巡るロシア・ウクライナ戦争

第2に挙げられるのが、域外大国の直接的な軍事介入のない地域紛争である。例としては、2021年のナゴルノカラバフを巡るアゼルバイジャンとアルメニアの紛争、そして2022年に始まったロシア・ウクライナ戦争がある。

これはいずれもが、自国ないし隣国の土地の支配を巡る戦いとなっている。そのため、遠征作戦のように遠隔地に展開する必要がない。補給もまた、自国と地続きの道路や鉄道によって支えられる。

第1と第2の例として挙げたのは、正規軍同士の戦争であった。第3に挙げられるのが、内乱鎮圧作戦のような、正規軍対非正規軍の戦いである。イラク戦争やアフガニスタン戦争で、当初戦った現地政府を打倒したあとに米軍が展開した内乱鎮圧作戦がこれに当たる。

これらの戦争では、米軍はハイテク戦力を駆使して相手国の首都を短期間で制圧することができた。しかし、それで戦争は終わらず、それぞれの領域の中で反米勢力が抵抗活動を繰り広げた。この、首都制圧後の抵抗活動に対する米軍の戦いを、それぞれの戦争の「フェイズ2」と呼ぶことがある(「フェイズ1」は首都制圧まで)。