正規軍がテロ組織や民兵と戦うのは難しい

第1に挙げた域外大国の軍事介入との違いは、正規軍対正規軍、すなわちクラウゼヴィッツ的な「三位一体戦争観」に基づく、社会の中で機能的に分化された軍隊同士の戦いに対し、一方は正規軍だがもう一方がテロ組織や民兵のような武装集団などの非正規軍である、という点である。

社会の中で機能的に分化していないこのような武装組織は、一般社会に潜伏しながら正規軍へのテロ的な攻撃を行う。そのため、戦いの図式が、〔軍〕対〔軍〕ではなく、〔軍〕対〔社会の一部〕となってしまう。そして、武装組織が一般市民に溶け込んで社会の中で活動すると、軍側としては探知―攻撃サイクルを実行することが難しくなる。

より正確には、一般市民と非正規軍とを区別し、非正規軍の戦闘員のみを選択的に攻撃するのが難しくなる。もし、一般市民を巻き添えにしたり、誤情報で攻撃したりすると、本来味方にすべき一般市民が敵に回る可能性がある。つまり、このタイプの戦争においては、正規軍側は、攻撃すればするほど敵が減らないどころか、敵を増やしていく可能性がある。

イラク戦争・アフガニスタン戦争の結末

こうした戦いで重視されるのは、単なる物理力ではなく、一般市民の「心をつかむ」ことであった。一般市民を味方に付けることによって、非正規軍の戦闘員を社会から浮いた存在にして、一般市民から彼らの情報を得たり、一般市民の側から彼らを排除していくことで、非正規軍を弱体化させていくという考え方である。

これはイラク戦争のフェイズ2の中で「カウンターインサージェンシー」として米軍が実行し、特にブッシュ政権で行われた駐留兵力増派の時期に一時的に成功した。また、米軍は、アフガニスタン戦争のフェイズ2では、地上軍のプレゼンスを限定して、反政府の非正規軍をドローンや特殊部隊で選択的に攻撃する「カウンターテロ」作戦も行った。

しかし、いずれの方法も決定的な成果を上げられず、最終的に米軍はアフガニスタンから撤退し、イラクでも駐留兵力を削減することとなった。ベトナム戦争も同様の事例であり、それほどまでに正規軍が非正規軍に勝利することは実際には難しいのである。