林業の効率化政策が立木価格低下を招いた

この立木価格の低下に、実は林業政策が関係している。

林野庁は、[丸太価格から伐採・運材コストを引いたものが立木価格]なので、伐採・運材コストを下げれば、立木価格は上昇して再造林が可能となると考え、伐採業者に高性能機械を補助した。

しかし、高性能機械の導入を政策に支援された伐採業者が丸太生産を増加したので、供給過剰になり丸太の価格が低下した。これにより、丸太の原材料である立木への需要が減少し、立木価格も低下したのだ。

切り出した丸太が積み上げられている
写真=iStock.com/tdub303
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林野庁の補助によって伐採業者のコストが低下すると、かつては伐採業者が引き取らなかった立木も伐採されるようになる。これで多くの立木が伐採され、丸太生産が増加すると、丸太価格が下がるので、立木価格も引き下がる。

さらに、林野庁の大型機械への助成により、伐採業者の大型化が進んでいる。

地域では少数の大型伐採業者が立木の購入という点では独占的な買い手となる。しかも、森林所有者にはどれだけ伐採にコストがかかるか分からない。伐採業者に有利な情報の非対称性が存在する。伐採業者は独占力や情報の非対称性を利用して、立木を買いたたく。立木価格の大幅な低下の背景には、以上の事情がある。

儲けているのは伐採業者と製材業者

伐採業者は、丸太価格は低下しても、林野庁の政策による伐出・運材等のコスト低下という利益とともに、原材料である立木価格が丸太以上に低下しているという利益を受ける。損はしない。さらに、広範囲で盗伐を行う業者もいる。この場合は立木に価格を払わなくてもよい。

製品(製材)業者も同じである。木材輸入の形態は丸太から製品に変化した。一物一価なので、国産の製品の価格は、大きな世界市場で決定される輸入品の国際価格とほぼ同じになる(日本は国際経済学でいう“小国”である)。

また、これは高値で安定している。林野庁は、製材工場についても補助事業で大型化を推進してきた。製品業者は、高位安定の製品価格、政府の援助による生産コストの低下、原料である丸太価格低下の三重の利益を受けた。

伐採業者や製材業者への林野庁の支援は、かれらの利益を増大させるだけで、林野庁が予定していた再造林のための森林所有者への利益還元という効果を生まなかった。それどころか、林業成長化論に基づく政策が立木価格を大きく低下させ、再造林を困難なものとしている。