個人的なこととして受け止めない

このAさんから依頼を受けていた仕事は朝が早かったため、私はいつも前乗りで現地入りしていました。

仕事は翌朝からですから、夜遅くに到着すればいいのですが、Aさんからは、できるだけ夕方6時までには到着して食事会に参加してほしいと言われていました。そして、間に合わないと言おうものなら、「いやいや、どうしても何とかなりませんか」と迫られるのです。

なぜ私にそれほど参加を促すかと言うと、Aさんは1回の接待で5万円まで自分の裁量で使える権限を持っていて、私のような業者を接待したとなると、5万円を上限に、料理屋で好き放題に飲み食いができるからです。

いつも豪華な料理と高級な地酒で、べろんべろんになるまで、どんちゃん騒ぎをしていました。

Aさんが経費を精算するときに、会社に領収書を提出して、私を接待したとするのかと思うと、決してよい気分はしませんでしたが、どうすることもできませんでした。

こうした経験もありますから、相談者の方の気持ちはよくわかります。ただ私の場合は、Aさんが、あからさまに、そうした行為をする人でしたので、周囲の人たちが皆そのことを知っていたのが救いでした。

相談者の方が不愉快に感じられているのは、ごもっともでしょう。対策としては、決して個人的なこととは受け止めないようにすることです。彼らは機会があれば、他の人にも同じことをしているものです。

お酌をする手元
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「ちょろまかし」文化は受け継がれてしまう

前出のAさんの行為は、私さえ我慢をして、見て見ないふりをすれば、問題なく収まるように思えるかもしれません。

実際に、私からクレームなどしたことはなく、Aさんの会社内でも問題になったとは聞いていません。

しかし、Aさんの行為は、組織に確実に悪い影響を及ぼします。

Aさんのような人がいると、その行為を見ていた周囲の若い人たちが、同じようなことをしはじめるのです。

全員ではありませんが、「ちょろまかし」をすることに抵抗を持たない人が出てきます。

簡単に想像できることに聞こえるでしょうが、それを見たときには、なかなかのショックを受けたものです。

Aさんの部下だったBさんは、少し出世して、ある程度の経費を使える立場になると、私のような業者を会社の会議室ではなく、都心の一流ホテルのラウンジに呼び出すことが増えました。

そこで打合せと称して、大して重要でない話をして、ラウンジの利用を楽しんでいるのです。「ここは今日2回目。さっきまで別の人と打合せをしていた」という調子です。