自分の若いころに比べたら若者は優しくなった

――その感覚はシリーズ1作目から変わりませんか。

いいえ。1作目を書いたのはもう十数年前になりますが(シリーズ第1弾『横道世之介』は2008年連載開始、2009年刊行)、当時は、こんなギラギラギスギスした世の中で、世之介なんて生きていけるのかなという感じでした。

僕はいま54歳なんですけれど、世之介はもしも同じクラスにいたら、「あいつ、ちょっとイライラするよな」と思ってしまう、変わり者のタイプだと思うんですよ。でも、十数年経ってみて、クラスの中に世之介みたいなタイプがわりと増えているんじゃないかという気がしますね。

――ネットの世界では、現実社会で感じる苦しさや憤りをぶちまける若者が多いように思います。吉田さんが世之介的な若者が増えていると感じるのは、リアルに会ってみてのことでしょうか。

そうですね、実際の社会の雰囲気としてはそうなんじゃないですか。いや、でも僕の性格なのかなぁ。ネットニュースも、嫌なニュースとか読みたくないニュースは飛ばしてしまいますからね。性格的に陽のほうというか、楽しいほうばかり見てしまうのかもしれません。

ただ、肌感覚でも、いまの若い人はすごく優しくなっている気がしますよ。彼らが裏で何をやっているかは知りませんし、優しさの反動がネットの世界に行っているのかもしれませんけれど、僕らの若いころに比べたらすごく優しくなっているし、礼儀正しくもなっていると思います。立ちションしている若者とか、最近は見たことないですからね。

運転中に割り込みをするのはオジサンばかり

――いまの若者はネットで悪口を言われるのが怖いから優しいふりをしているんだとか、嫌われたくないからコミュニケーション能力ばかり高くなっているんだ、なんて批判をする人もいます。

なるほど、若者って何やっても悪く言われるんですね……。世代論は苦手なんですが、たとえば僕らの若いころって、行列にすっと割り込んだりする人なんて普通にいましたけれど、いまだったらあり得ないでしょう。そういう小ずるい感じのことを僕自身もやってきたわけですが、そういうこと、いまの若い人はやりませんよ。僕が見ている範囲のことかもしれないけれど、みんな優しいし良識的だと思います。

吉田修一さん
撮影=西田香織
「1作目のときは『変わり者』として世之介を描いたわけですが、いまや、世之介的な人が本当に増えていると感じます」

僕は車好きなんですが、車の運転を見てもこの20年でものすごく変わったと思います。昔なんて「ここはサーキットかよ」っていうぐらい凄まじい状況があったんだけど、いま、追い越しかけてきていきなり割り込んでくる車を見ると、たいてい僕と同世代が乗っています。圧倒的にオジサン。若い人が乗っている車の多くは、先を譲ってくれるし、運転自体も優しいし、マナーもいい。つまり、横道世之介の世界は車道にあり、ということです(笑)。