日常生活で起こる事故を防ぐためにはどうすればいいか。心理学博士の榎本博明さんは「注意書きやアナウンスを過剰に行うのはむしろ逆効果だ。自ら考えて注意する習慣が失われ、思考停止状態に陥ってしまう」という――。

※本稿は、榎本博明『思考停止という病理』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

東京の山手線原宿駅
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ティッシュ箱のつぶし方の説明は必要なのか

いつの間にか、あらゆる商品に過剰にていねいな注意書きが記されるようになってきた気がする。

ティッシュペーパーの箱が空っぽになったため、箱をつぶして捨てようとしたら、箱の底に、使い終わった箱のたたみ方として図解つきの説明があった。ティッシュの箱のつぶし方なんて、各自が適当に考えればよさそうなものなのに、うまくたためなくて怪我をしてクレームをつける人がいたりするのだろうか。それにしても、こんなことは、いちいち図解で説明されなくても自分で適当に考えてできるようでないと困るだろう。

コンビニで飲み物を買って、ストローを取り外し、蓋の部分に刺そうとしたら、「ストローや外蓋の縁で怪我をしないように注意してください」と書いてある。こんな飲み物ひとつ飲むにも、ストローや蓋の縁で怪我をしないように人から言われないとダメなのだろうか。当然、そんなことは言われなくても注意するものだろう。

自ら注意する能力が失われてしまう

ストローや蓋の縁で怪我をしないようにといった注意書きはよく目にするようになったが、つい先日は、「ストローで勢いよく飲むとむせる可能性があるので注意してください」というような注意書きまで記されていたのには呆れてしまった。

このような注意書きがないと勢いよく吸い込んでむせてしまうというのでは困るだろう。ストローを使うとき、いちいちそんなことを注意してくれる人はいない。このような懇切ていねいな注意書きが増えてきたせいで、自ら注意する能力が失われているのではないだろうか。

豆菓子を食べながら小袋を見たら、「5歳以下の子どもには食べさせないようにしてください。口の中に入れたまま走ったり泣いたりすると誤って飲み込み窒息する危険があります」と書いてある。そのようなことは、書いてなくても親が自分で考え、配慮するようでないと困る。