再婚相手ではなく「無料の引っ越し先」だと思われている

yasさんの不動産屋トークを聞いたマッチング相手たちは皆、どんな気持ちだったのだろう。彼が見せたのはあくまで新築した家で、彼自身じゃない。再婚したらこれからこの家でどんな生活をするのか、パートナーとどんな関係になりたいかわからないし、それを話し合う姿勢もない。ハードは万全だがソフトはまったく準備されていないので、システム障害を起こすのが当たり前の家なのだ。

日本の定年離婚、熟年離婚にはこのパターンが多い。夫は稼いでハード(容器)を手に入れることで満足している。でも妻や子供はソフトの機能不良の容器の中で窒息寸前で、出ていくことしか考えられない。

yasさんに「この家で楽しく家事をしてくれる専業主婦の奥さんが欲しいんですか?」と言うと、そうだ、と言う。

「家を見に来た女性はほとんどが家で落ち着きたい、家にいるのが好き、という専業主婦志願者たちだった。僕もそういう女性のために家を建てたんだし、ちょうど釣り合いが取れるでしょう?」

それで再婚したらきっとまた失敗を繰り返す。見学に来た女性たちはyasさんを結婚相手として認識したのではなく、この家なら家賃無料の引っ越し先になりそうと思っているだけだ。窮屈になったらまた出て行くか追い出される。でも無邪気に邸宅自慢をするyasさんにはそんな不安は見えない。

淋しさゆえに複数のアプリを併用している

yasさんの価値観は日本がまだ経済成長期で家や物が豊かさの象徴だった時代で止まっていて、家族にはソフトが必要だという観点が抜け落ちている。素敵な家、便利な家電、ガーデンテーブルセットがあるバルコニー。ハードは完璧だが、それを楽しむために必要な家族の関係性は機能不全だ。

「ここに見学に来てくれて気が合った人には、最後に聞くんですよ。ここに住まない? なんなら今日からでもいいよって。それで1週間とか1カ月ぐらい一緒に住んだこともあるんだけど、みんな老親を介護してたり、関係が続かなくて」

この大きな家に1人は淋しすぎる。だからyasさんはすぐに誰かと知り合えるように、アプリはいつもチェックしているという。マッチングしてもすぐ次の人を探すのがもう習慣化しているのだ。

マッチングアプリを使う人
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「アプリに登録した頃から誰かと付き合ってても、朝起きると習慣でアプリをチェックして、1日に何回も見ちゃうんだよね。なんていうか精神安定剤? 僕のようなオヤジだと『いいね!』をくれるのは業者やサクラが多いし、登録して半年も経つとマッチングはどんどん減っていくから、退会して再入会してを繰り返してまた同じ人とマッチングしたり」

だから複数のアプリを併用する。