大阪でも原発の是非を問う住民投票を求める署名運動が起きた

同様の問題は、在沖縄米軍普天間飛行場の辺野古移設問題や脱原発問題などで住民投票を行う際に生じています。かつて大阪でも原発の是非を問う住民投票を求める署名運動が起きましたが、当時大阪市長だった僕は住民投票の求めをことごとく拒否しました。署名運動を行った市民からはもちろん、メディアや識者からも、住民の声を無視するのか! 民主主義を冒涜している!と散々批判されましたよ。でも、住民投票自体を否定したんじゃないんです。投票を行うなら、事前にしっかりとした具体案、つまりシナリオを作るべきなのに、それがないまま、ただ単純にYES、NOを問う住民投票だったので拒否したのです。

シナリオがない場合に、仮に「原発反対・停止」の“民意”が出たとします。それをいきなり実行できるでしょうか? いざ電力が足りなくなった場合、人々は計画停電を許容するのでしょうか? 僕も当時救急病院などの医療機関の状況を調べましたが、非常電源装置を備えている病院はほとんどありませんでした。代替電力案もなく、「脱原発」ムードに流された結果の住民投票の民意で、手術中に亡くなる方が続出……などは絶対に避けなくてはなりません。原発反対・停止をするなら、それを実行するシナリオが必要で、それが作成できてから住民投票にかけるべきなのです。

その意味では、23年4月に「脱原発」を実現したドイツは見事です。あらゆるシナリオ案を描き、歳月をかけて再生可能エネルギー比率を高め、最終的には隣国フランスからの電力輸入も確保しての「脱原発」です。しっかりと脱原発のシナリオを作ったからこそ、それを実行できたわけです。

ただ、ドイツができたから日本でもすぐにできると考えるのは拙速です。「物事(イシュー)の是非を決めるあらゆる決定」には、それを実行するためのシナリオが必要なのであり、シナリオを作ってからその是非を決定すべきなのです。具体的なシナリオなく感情的に是非を決めてしまうとその後大混乱をもたらしてしまうということが、ブレクジットから学ぶべき教訓です。

(構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)
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