「王の子ではなく有能な者が王になる」

パパド売りを続けていた頃、私が数学が得意だったことを聞きつけた知人から声が掛かり、進学塾で数学講師としての職を得ることができました。

半年ほど働いたある日、とても大きな才能を持ちながら貧乏で高等教育を受けられない生徒と出会いました。彼もまた、私と同じように「勉強したい」という志を持ちながら、家庭が貧しいというだけでその機会を得られずにいたのです。私は「彼らに自分と同じような経験をさせてはならない」「自分がなんとかしなければ」と痛感し、Super 30の開設を思い立ったのです。

私の父も家庭が貧困であったため才能があったのに教育の機会を失い、給料の低い職にしか就けなかったのです。貧しい家庭の有能な子供を教育支援することは、父からの遺言でもあったのです。父の口癖は、「王様の子が王様になるのではなく、有能でやる気がある者が王様になる」でした。私もそのことを自分の胸に焼き付けました。

塾を抜け出した生徒は1人もいない

――Super 30で学ぶ30人の塾生の普段の生活はどんなものですか。

Super 30は毎年6月に授業を開始し、IITの入試が行われる翌年の3~4月まで授業が続きます。

彼らは朝6時に起床し、朝食を取った後、授業を午前8時から午後1時まで受けます。その後昼食をとり、午後2時からは自習が始まります。夜9時に短い夕食を挟んで、勤勉な生徒は日をまたいだ午前2時まで自習をします。よって彼らは、平均的には毎日14~16時間は勉強していることになります。

受験競争はとても厳しく、彼らのような貧しい子供たちが通ってきた地元の公立学校は、裕福な子供が通う私立学校とは異なり、先生の数も少なく教材や設備も貧弱なので、Super 30に入ってからは猛勉強して、それまでの遅れを取り戻す必要があるのです。

――Super 30での勉強や生活はとても厳しいようですが、ドロップアウト(退学)した生徒はいますか。

これまでドロップアウトした生徒は1人もいません。その理由は、われわれが彼らに将来の明確な目的を示し、励まし勇気づけるからです。貧しい家庭出身の彼らには、他に行くところがないのです。だから彼らは本気で頑張り、われわれも全力でサポートするのです。

オンラインでインタビューを受けるアナンド・クマールさん
オンラインでインタビューを受けるアナンド・クマールさん