テクノロジーはDXの手段に過ぎない

②個の理解によって変革の原動力を最大化させる人起点での取り組み不足

忘れてはならないのは、デジタルという言葉で代表されるテクノロジーは、あくまで手段でしかないということだ。とかく、DXとなると、AIやデータ利活用、最新のクラウドサービスの活用など、テクノロジーそのものに焦点が当たりがちである。しかし2018年頃に始まった日本におけるDXブームも一巡し、早くからDXに着手している企業ほど、本質的な事業変革や新規事業開発には目先のテクノロジー活用ではなく、それをどのように活用するのか、何を実現するのかの目的意識が重要であることに気づき始めている。

そこで最も重要になるのが、持続的かつ自律的に、イシュードリブンに変革を推進できる人材育成や組織開発だ。

例えばマイクロソフトでは、事業変革の中での「グロース・マインドセット」(=自分の才能や能力は経験や努力によって向上することができるという成長思考)の定着が主に注目されるが、その土台にもやはり人と組織カルチャーの変革がある。

熱意あふれる従業員率は129カ国中128位

様々な取り組みが行われているが、例えば、従業員に地道に働きかけることを目的とした、具体的な価値創造ストーリーを経営陣自らが毎週語るリーダーズミーティングの存在が象徴的だ。

日本企業の経営層の多くは、人を起点とした変革の実現性について確証を持てない状況にある。というのは、海外の企業に比べて、日本企業の従業員エンゲージメントは、極めて低いといわれているからだ。

ギャラップの調査「State of the Global Workplace 2022」によれば、日本企業における熱意あふれる(従業員エンゲージメントの強い)社員の比率はわずか5%。なんと、調査対象129カ国中128位である。自分の会社に無関心な従業員が過半であるという状況から脱していくためには、自社の事業成長だけにフォーカスすることにとどまらず、経営者自らが従業員をよりよく理解し、その原動力を戦略的に活用していこうという姿勢を示すことが極めて重要ではないだろうか。