「動きの速さ」で小物が老舗大手に勝てる世界に

「ディスラプター(破壊者)」はDXの必要性の説明でよく使われる単語だが、世界経済フォーラムの創設者であるクラウス・シュワブ氏の「It's the Fast fish eats the Slow fish(速い魚が遅い魚を食う)」という言葉で説明される。顧客のニーズと供給者側のニーズを聞き、そのニーズを満たす取り込みを、デジタルの活用によるスピード感のあるアジャイルなシステム開発によって実現することで、小資本企業が、動きが鈍い大手企業のシェアを奪うような現象が起きている。

実際に、このようなディスラプターによる「破壊」はあらゆる産業で起こった。

例えば全米第2位の書籍販売チェーンのボーダーズは、アマゾンの誕生後16年で日本の会社更生法にあたる米連邦破産法11条を申請。世界最大のビデオレンタルチェーンのブロックバスターもネットフリックスの誕生後13年で同じく米連邦破産法11条を申請した。1918年に創業し米レンタカービジネスの最大手だったハーツも、シェアライドの台頭に加えて新型コロナウイルス感染症に止めを刺された格好となり、2020年に米連邦破産法11条を申請している。翌年には復活するがテスラ車を10万台発注し、レンタルと充電、デジタルガイダンスをセットで提供するなど、モビリティ企業に変革すると述べている。

日本企業のDXが進まない3つの理由

我々がここで注目すべきは、これらのディスラプターの登場によって従来型の老舗企業が破綻に追い込まれるまでの期間が短期化している点であろう。

自分たちの既存ビジネスがディスラプターの存在によって短期間で一気に失われかねないという危機意識が日本企業の経営者にも浸透し、DXへの強力な動機付けとなっている。

にもかかわらず、日本企業の変革が進まないのはなぜか。事業環境が急速に変化していても変革ができない、あるいはグローバルに見ても変革が遅い理由は以下の3つであると考えられる。

①変革を継続的に回し続ける、組織を縦横に繋ぐ強いリーダーシップ不足
②個の理解によって変革の原動力を最大化させる人起点での取り組み不足
③高度経済成長期から組まれた人事制度などの仕組みの経路“相互”依存性

①変革を継続的に回し続ける、組織を縦横に繋ぐ強いリーダーシップ不足

日本企業の縦割り傾向の原因ともいえる事業部制は、第二次世界大戦前後の経済成長の中でデュポン、GMやGEなどの大企業が複数の商品カテゴリーやブランドをマネジメントするために事業ごとにP&L(損益計算書)を見えるようにしたことがきっかけで、極めて合理的な経営の選択肢として世界的に広まった。