「天国があると信じるほうが楽しいでしょう」

【島薗】土居先生と私の父は同僚関係で、父は自然科学風の精神医学をやっていました。その息子が宗教学を学んだので、土居先生はすごくおもしろがってくださったのです。土居先生に勧められた本がたくさんあって、そのひとつが、上智大学の学長をされていたヘルマン・ホイヴェルス神父の本です。土居先生はプロテスタントからカトリックに変わられたのですが、カトリックの中でもホイヴェルスさんがお好きで、本の編集もされていました。

【最相】ホイヴェルス神父は、日本文化を非常に大切にされた神父だと伺っています。

【島薗】ええ、自分で日本語の戯曲も書いたりね。土居先生からはホイヴェルス先生の『人生の秋に』(『人生の秋に ホイヴェルス随想選集』、春秋社)という本を薦められました。老いと死について書いていた本で、私には少なからず影響を与えていると思います。

あと、劇作家の井上ひさしさんは上智大学なので、ホイヴェルス神父から話を聞いている。彼はホイヴェルス神父に教えを受けたことがあったようで、「本当に天国がありますか」と聞いたらしいです。そうすると「あると信じるほうが楽しいでしょうが」と言う。死んだあとに寂しいところに行くとか、無になると思うよりも、にぎやかな天国に行けるほうが楽しい。だから私は神様を信じてきたんだと。キリスト教の中で通用する言葉とは違う言葉で、日本人の学生に説明しようとすると、このような言い方になったのかもしれない。でも、心に響く言葉です。

日本の宗教研究の第一人者である島薗氏
撮影=髙須力
日本の宗教研究の第一人者である島薗氏

信仰を深めていくプロセスを1冊にまとめた

【島薗】証し』の中でも、心を動かされたのは、特に後半のパートに多かったです。もっとも強く印象に残ったのは、最後に掲載されている、ハンセン病で子どものころから苦労され、配偶者もなくされ、視力も失いながらも、信仰を持ち続けた方の話です。14の章にわたって135名の語りが並んでいますが、この順番はどうやって決められたのでしょう。

【最相】どう並べるのかは大問題でしたね。テープ起こしを改めて読み直し、この人は何を一番おっしゃりたいのかを、一人ずつ順番に書き出していきました。例えば、この人は神に出会った日のことを、この人は病に直面した時のことを話しているなと分類してみたんです。

そして多くの方の話を聞くなかで見えてきたのが、もし私が信仰を持ったとしたらこんな順番に辿るのではないかと思った道筋で、結果的にその順番に並べてみました。

【島薗】自ら入信し、あるいは家族から受け継ぎ、それから転身したり、社会活動に入っていったり、そして戦争や差別といった問題に出会いながら信仰を深めていく、そういう流れですよね。

【最相】ええ。ですから、一人ひとりの信仰と同時に、一人の人間の信仰の道程として読んでいただけると、書き手としてはうれしいです。