脱プラ運動の影響を受けない新ビジネス

新型コロナ禍で救世主となったのは、新型コロナ感染を診断するためのPCR検査用ストローだった。

プラスチックストローといえば誰もが飲料用を思い浮かべる。そんな常識を覆したのがシバセ工業だ。「工業用ストロー」や「医療用ストロー」といった新分野を作り出し、飲食業界以外にも販路を広げていたのだ。

ここで注目すべきなのは、工業用・医療用はハイテク製品であるという点だ。飲料用以上に高い精度が求められ、材料としてはプラスチックの利用が必須になる。紙ストローは代替品になり得ない。

言い換えれば、工業用・医療用が主力ビジネスになっていれば、ATTVの世界で脱プラ運動がどんなに盛り上がったとしても、シバセ工業は影響を受けないということだ。逆に新規市場を開拓する武器を手に入れた格好だ。

PCR検査用ストローは医療用のカテゴリーに入り、唾液によるPCR検査の際に使われる。シバセ工業以外に対応できるメーカーは存在しなかった。

PCR検査用の生産は2020年6月にスタート。1年後には月間出荷本数は数百万本に達し、工場はフル稼働状態になった。東京五輪の開催に伴う特需もあった。選手や関係者を対象にしたPCR検査用に特別仕様のストローが必要になり、これだけで100万本以上の注文が舞い込んだ。

2021年度には工業用・医療用ストローの売上高が初めて飲料用ストローを上回り、シバセ工業が扱う製品カテゴリーの中で最大になった。

下請け体質が染み付いて危機に陥った過去

シバセ工業は20年前にも大きな危機を乗り越えている。

1990年代後半、シバセ工業はグリコ協同乳業(現・江崎グリコ)の下請けとして、紙パック飲料向けストロー生産を手掛けていた。売り上げの9割以上をグリコに依存していたため、まるで生産子会社のような存在になっていた。

そんな状況下でグリコから自立を促された。それまで20年以上にわたってグリコに全面的に頼って成長を続けてきたというのに、新たな顧客を開拓しなければ生き残れないという状況に置かれた。

下請け体質が染み付き、営業部門さえ持っていなかったシバセ工業。「第二のグリコ」が見つかるはずもなかった。売上高はみるみる減り始め、最盛期の1980年代に6億円に達していた売上高は、2002年度には1億2000万円にまで落ち込んだ。

【図表】2002年度に底を打ったシバセ工業の売上高はその後、V字回復した
シバセ工業の売上高推移(図表=シバセ工業提供)