改革の天王山は具体的な改革の前にある

――「社員が痛みを覚えられないのは自然」。多くの人が気づいていない、あるいは見ようとしていないことだと思います。「強烈な反省論」が展開されると、人は、組織はどう変わるのでしょうか?

【三枝】不振の本質を引きずり出して視覚化し、皆にプレゼンテーションします。それをまずは経営トップの前で行い、追って社内の各部門に出向いて、プレゼンをして回ります。

すべての従業員の前で「自分たちの事業は今こういう状態なのだ」「その責任は他人ではなく自分にあるのだ」ということを、グウの音も出ないデータを見せることで気づいてもらう。すると、社員たちは「自分は業績破綻の被害者ではなく、加害者であったのか」と考え込み、「自分もまずかった」と思います。個人の痛みを感じ、自省の念を抱くのです。

ここに至るまでが改革の天王山です。この天王山は、実際に具体的な改革の行動に着手するより前に来ます。

「強烈な反省論」が示され、部署内部のほとんどの個人がそれぞれ「自分もまずかった」と思うことが起きたら、その痛みは部署全体の反省論として共有されたようになります。そして「これはまずい。自分も改善しなければ」と思い、「何とかしよう」と互いに話し、それが部署の大勢になれば、その部署は改革に向かって動き始めます。これが全部署に広がれば、全社的に「何とかしなければ」の前向きの姿勢が広がることになるのです。

その上でタスクフォースは、事業を立て直すための改革シナリオを描き、示す。

先に述べたケースでは、4月に立案した改革ストーリーを社長にプレゼンし、それを事業部内の社員に向けて説明するために各地を回り、7月から事業組織を新会社に集約して、大改革を始めました。

人は真に危機感を覚えると一生懸命やろうとします。そして、戦略を実行した結果がプラスの形で出てくると、次第に熱くなってくるのです。その熱さにより新たなプラスの結果が生まれ、事業が良い方向に向かって動き回り始めます。こうなれば改革は軌道に乗る。逆にそれができないと改革は失速してしまいます。

三枝匡さん
撮影=西田香織
三枝匡さん

解雇ではなく「いま、そこにいる社員の心に火をつける」

――「戦略」だけでは改革は実らないのですね。

【三枝】改革には従業員一人ひとりの熱が不可欠です。「こんなものをやっていて意味があるのか」と思われ、言われたことに従うだけになってしまっては、改革の成果など出てはきません。

改革を成功させるには、いま、そこにいる人たちの心に火をつけて、「よし、やろう」と思ってもらわなければなりません。「これまでと違い、今回の改革ならば行ける」と、協力してもらわなければならないのです。だからこそ、「戦略」と「ビジネスプロセス・組織」の同時変革を狙いました。

『V字回復の経営』のケースでは、私が立て直しに取りかかった時、当時の社長が「あと2年で黒字化できなかったら、この事業はつぶす」と内外に宣言しました。

これには皆驚きましが、最終的にこの不振事業は本当に2年で回復・黒字化しました。9年ぶりの年度黒字でした。長い不振が続いていたことを考えると、驚くべき回復スピードです。