がんは取れたかもしれないけれど、その結果、どのようなダメージがもたらされるのかということに、まったく頓着しない医師の様子に、怒りすら湧いたといいます。

事実、右肺がいきなり半分の大きさになったことで、胃の位置の収まりが悪くなり、吐き気に悩まされるなど、お母さんの不調は長らく続きました。80歳を超えて食欲がなくなると、体力は一気に低下します。

がんは取れたけれども、果たしてその後の「生活の質」(QOL)から考えると、あの手術をやるべきだったのかどうか……。このお母さんは、3年後の健康診断で再び肺がんが見つかりますが、今度は手術を拒否します。すると医師は「手術をしないなら、私にできる治療はない。ご勝手に」と、投げ出すような発言をしたそうです。

手術をする選択もあれば、しない選択もある。標準治療以外の道を患者さんが選んでも、そのことを尊重して、しかるべき緩和ケアにつなぐといった心ある対応のできる医師が増えてほしいものです。

高齢者になると、必ずしも治療をする必要がない病、治療しないほうがよい晩年を送ることができる病というものが少なくありません。患者さんの立場に立って、よりよいケアを考えてくれるかかりつけ医を見つけておくこと。これにまさる備えはありません。

専門医よりもかかりつけ医による生きたアドバイスで前向きに

別の知り合いのお母さんの件もご紹介しましょう。専門医よりもかかりつけ医の的確なアドバイスによって安心の生活を整えることができたというケースです。

そのお母さんは、80歳を目前にした頃から、骨盤を下から支えている骨盤底筋の筋力低下によって排泄コントロールが難しくなったといいます。

本人は、自分でなんとかしようとしていたようで、頻繁にトイレに行くようにしたり、尿もれパッドをつけるなどの努力を続けていたのですが、ついに直腸脱を起こして大量に出血するようになってしまいました。

括約筋の筋力がなくなり、直腸が肛門から出てきてしまうのが直腸脱で、こうなるとなおさら排泄のコントロールが難しくなりますし、外出どころではなくなります。

そこで、「肛門科」の専門医としての看板を掲げている地域の病院を見つけ出して受診したところ、「括約筋が全然機能してないから紙パンツ履いて。出血しているので軟膏だけ1週間分出しておく。あとはもう来なくていいから」とだけ言われたそうです。その後どうすべきか、どんな治療ができるのかなど、何の説明もしてもらえなかったと言います。

不安ばかりが募る結果となってしまい、思わず内科のかかりつけ医のところにその足で相談に行きました。

すると、さっさと触診もしてくれて、「出産を経験した人のなかには、こういう症状が出る人もいる。頑張ってきた証拠。貧血にならないように気をつければ、あとは心配いらないから」と言われたそうです。

患者に説明する男性医師
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手術での治療の可能性を聞いたところ「今の年齢で入院して手術することのリスクを考えると勧めません。それよりは筋力をつけたほうがいいですよ。紙パンツはいいと思います。あとはトイレの度にいきみすぎないようにね」などと、丁寧なアドバイスをもらえました。