「子育て」はどこが大変なのか。35歳で双子の男児を出産した翻訳家・エッセイストの村井理子さんは「夫は仕事をしながらも育児を手伝ってくれたが、あくまで『脇役』としてだった。たった一人でこの双子を育てているという孤独感が一番辛かった」という――。

※本稿は、村井理子『ふたご母戦記』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

ベビーカーを押す悲しい母親
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育児で一番辛いのは「孤独」だ

育児の何がそこまで大変なの? そもそも、大変だということはわかっていて、それでもあえて出産したのでしょう? と、私自身も何度か言われたことがある。そのたび、何も言い返せず、口ごもるだけだった。悲しい。

今だったら、育児の何がそこまで大変なのだと問われたら、「孤独」が一番辛いのだと大声でハキハキと答えることができる。大変だとわかって産んだのでしょう? と言われれば、それはもちろんわかっていたけれど、ここまで大変だとは夢にも思っていませんでした! と答える。特に、ゼロ歳から二歳頃の育児はどんなにタフな人でも苦労するのではないだろうか。

いつの間にやら、世の中にイクメンという言葉が登場し、確かに、街には赤ちゃんを抱っこ紐で抱える若い父親たちの姿が増えたものの、自分の周りを見回すと、そんな人はあまりいなかったし、自分の夫もいわゆるイクメンタイプではなかった。私の数少ないママ友たちの夫は、ほぼ全員が今どきのイクメンのイメージからは遠く、どちらかというと、外でバリバリ働き、稼ぎ、育児は妻に完全に任せるタイプの人が多かった。

しかし、そんな夫たちが悪い夫かというと、皆が気のいい、優しい人たちで、それぞれが幸せに暮らしているように見えた。それでもやはり、子育てを一手に任されたママ友たちは疲れ切って見えた。

一人が眠れば、もう一人が目を覚ます

わが家も似たような環境だった。私の夫はとても真面目なサラリーマンだ。休まず働き、双子が赤ちゃんの頃は猛烈に残業をしていた。朝、七時に京都の職場へと向かい、琵琶湖北西部のわが家に戻るのは、ほぼ深夜になることも多かった。疲れて家に戻り、食事をして、風呂に入って、寝るのが精一杯の生活。そして、数時間寝て、また職場に戻る。家にいるよりも、職場にいるほうが長いような毎日だった。

双子と一緒に家から一歩も出られず、ほぼ眠ることができないような暮らしをしていた私は、そんな疲れ切った夫の帰りを今か今かと待って、毎日をどうにかしてやり過ごしていた。

双子はひっきりなしに泣き続けた。一人がようやく眠れば、もう一人は目を覚ました。一人が風邪を引けば、もう一人も必ず風邪を引いた。とにかく誰かがつきっきりで面倒を見なくてはいけない。その誰かは、ほとんど私だった。夫が戻れば、三十分でも育児を代わってもらうことができる。その間に自分の好きなことができる。

今となっては夫も大変だったに違いないと思うけれど、私自身も辛い時期を過ごしていた。そんなギリギリな日々は、今にして思えば、完全な悪循環のはじまりだった。