「『強い企業』にしたいと思ったことは一度もありません」

トヨタは毎年、1000人以上を採用している。そして、採用した人間をきちんと育てている。トヨタの社員が「やる仕事とやらない仕事」をきちんと教育している。

だから強い体質の会社ができあがる。雇用を守り、丁寧な教育研修を行うことがトヨタの「やる仕事」だ。

豊田章男新会長はこう言っている。

「企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しい時でも、いや、苦しい時こそ、歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあります。(中略)

この11年間、私はトヨタを『強い企業』にしたいと思ったことは一度もありません。トヨタを『世界中の人々から頼りにされる企業』、『必要とされる企業』にしたいという一心で経営の舵取りをしてきたつもりでございます。

大切なことは『何のために強くなるのか』、『どのようにして強くなるのか』ということだと思います。

私は、『世の中の役に立つ』ために、世界中の仲間と『ともに』強くならなければいけないと思っております」(トヨタイムズ、同

トヨタ自動車の佐藤恒治社長
撮影=プレジデントオンライン編集部

その覚悟は「トヨタ工業学園の卒業式」に表れている

わたしは豊田さんや幹部が「雇用を守る」と言っていることにリアリティを感じる。

それは2018年から毎年、トヨタ工業学園の卒業式を見ているからだ。コロナ禍になってからはオンラインになったけれど、それまでは豊田市の本社に出かけていって卒業式に参加した。頼まれたわけではない。いつかトヨタ工業学園について執筆しようと思ったから、勝手に見に行っていた。

野地秩嘉『図解 トヨタがやらない仕事、やる仕事』(プレジデント社)
野地秩嘉『図解 トヨタがやらない仕事、やる仕事』(プレジデント社)

卒業式は粛々と進む。最後に総代が入社の決意を述べる。高校卒と同じ年齢だから18歳だ。しかし、非常に、しっかりしている。大人だなあと感じる。話す内容はトヨタの幹部と遜色ないのである。

豊田さん以下の幹部は毎年、卒業式には必ず出席する。ただ今年だけは名誉会長だった豊田章一郎さんが亡くなったため、長男の豊田新会長は出席しなかった。しかし、他の幹部は全員、式に出ていた。

トヨタの幹部は卒業式に出ると泣いてしまう。自身がトヨタ工業学園を卒業している、「おやじ」の河合満は大泣きに泣いてしまう。厳しいことで知られる「番頭」の小林耕士も泣く。鬼の目に涙だ。そして、今年はいなかったが、豊田新会長も泣く。あふれる涙で声にならないこともある。

彼らは泣きながら、「オレたちは雇用を守る」と決めている。その決意はちゃんと伝わってくる。

【関連記事】
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ
高校に行かなくても副社長になれる…トヨタ自動車が学歴や門閥を重んじない会社になったワケ
現場にある「日本の心」にほれ込んだ…キューバの英雄・ゲバラが「無名時代のトヨタ工場」を見に来たワケ
トヨタは「会社の花見」でもカイゼンを繰り返す…「花見の幹事」から役員に出世した人がやっていたウラ技
定年まで勤めていたら、社長にはなれなかった…アサヒビール新社長が58歳で転職を決意した理由