所有物は高値で売りたくなる

こうした手放すか手放さないかの選択の場面で陥りやすいのが、「保有効果」という認知バイアスです。

心理学者ダニエル・カーネマンらの実験では、参加者(売り手)は6ドル相当のマグカップをもらい、そのあと「いくらならカップを手放してもよいか?」と尋ねられました。また、カップをもらっていない参加者(買い手)は、「いくらならカップを手に入れたいか?」と尋ねられました。すると売り手は約5.3ドルと答えたのに対し、買い手は2.5ドル付近と答え、両者で2倍以上も値段が異なりました。

カーネマンらは、さらに条件をさまざまに変更して、同様の実験を行っています。しかし、結果はいずれも、売り手が買い手の2倍以上の値をつけ、売り手が「所有している」カップに高い値をつける傾向は変わりませんでした。

手放すとなると惜しくなる

行動経済学者リチャード・セイラーは、持っているだけで価値が上がる事例を検証し、これを「保有効果」と呼びました。「授かり効果」と訳されることもあります。

たとえば、フリーマーケットなどで売り手のつけた値段に「高い!」と感じたことはないでしょうか。転売目的は別として、人は自分が所有していたものを手放すときは、たとえ古着でも高い値をつけようとします。手放すという心理的痛みが、値段に反映されるのかもしれません。

保有効果を示す代表的な実験例が、もう1つあります。この実験ではアンケートの回答者を、マグカップをもらうA群、チョコレートバーをもらうB群、何ももらわないC群に分けました。回答を終えた段階で、希望者にはA群ならチョコレートに交換可能、B群ならマグカップに交換可能、C群はどちらか1つを選択できることを伝えます。結果、C群の選択率はほぼ半々で、好みに偏りがないことが確認されました。

ところが、A群とB群ともに交換を希望した参加者は10%ほどでした。つまり、数分前にたまたまもらったような品であっても、手放すという選択にはなりにくかったようです。