現代では脳科学が進歩したことで、人間の心理メカニズムをある程度科学的に説明できるようになりましたが、ブッダは2500年以上前の時点ですでに、体感的にこの負のサイクルに気づいていたというわけです。

こういう感情を抱くと、心臓がドキドキしたり、頭がカッとなったりする。それが続くと体が疲弊し、心身の調子が悪くなる。結果的に、すべてのものごとがうまくいかなくなる。ブッダは自分の肉体と精神の変化を徹底的に観察することによって得られた答えを、すべてエビデンスにしていったわけですね。

ほったらかしにしておくと、苦悩が消えることはなく、自分の肉体・精神・人生を滅ぼしていってしまう――だから貪瞋痴は三毒なのです。

後悔に耐える男
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欲があるから怒りが生まれ、無知だから新たな欲が生まれる…

恋愛に例えると、とてもわかりやすいかもしれません。

あなたに好きな人ができたとします。もっと近づきたい。触れ合いたい。付き合いたい。結婚したい。これは「欲(貪)」です。

そして、相手も自分のことを好きになってほしい、好きになってくれるかもしれないと期待します。しかし、世の中はかなわぬ恋が大半。残念ながら、「こうなってほしい」という欲望は、その人の心が生み出した都合の良い「妄想」にすぎません。

相手がこちらの好意を察して避けるようになったり、勇気を出して告白するもフラれたり、という結末が待っていることも多いでしょう。

すると今度は、「なんでうまくいかないんだ」「自分の思いどおりにならないんだ」という「怒り(瞋)」が生まれます。相手のことを好きな気持ちが強く、失恋のダメージが大きければ大きいほど、怒りの度合いが強くなることは自明の理。

「相手も自分のことが好きかもしれない」「好きになってくれるかもしれない」というのは完全に妄想であり、勝手にひとり相撲をとって自爆しているだけなのに、いつの間にかふつふつとこみ上げてくる怒りを抱える自分に苦悩することになるのです。

にもかかわらず、「それは愚かな自分の妄想にすぎない」ことを知らない。つまり、「無知(痴)」であるがために、再びかなわぬ恋を追い求めたり、ひどい場合には、好きな相手に対してストーカー行為をしてしまったりするようなこともあります。

また、いわゆるダメ男やダメ女との恋愛に失敗し、「二度と同じ過ちをくり返さない」と心に誓いながら、また似たようなタイプの人に引っかかることもあるでしょう。はっきりいえば、われわれ人間はアホなのです。「無知」は人間が巧みに生きることを阻む毒なのです。