欧米メディアは女性差別や人権問題に厳しく目を光らせている

G-Searchの検索では、1審の地裁判決は各紙が取り扱ったが、2審の高裁判決を報じたのは朝日新聞だけで、「文春の賠償額減額 ジャニーズのセクハラ記事訴訟」との見出しで「裁判長は所属タレントへのセクハラに関する記事の重要部分は真実と認定」と短く伝えたのみだった。ジャニーズ事務所所属タレントの少年たちが受けた児童性的虐待は単なる「セクハラ」として扱われた。

海外メディアはどうだったか。

米紙ニューヨーク・タイムズは高裁判決に先立つ00年、『週刊文春』の告発記事を取り上げ「日本の他の主要な報道機関は週刊文春の告発や喜多川の訴訟を報道していない。喜多川が自分や他の人にセックスを強要したと主張する元所属タレントたちが書いた数冊の告白本にも目をつぶっている」とジャニーズ事務所とマスメディアの癒着を指摘している。

英紙ガーディアンも05年「J-POPの夢工場」という記事で、男性アイドルグループの草分けフォーリーブスの北公次氏が半生記で喜多川にレイプされ、長期の性的関係を強要されたと暴露したことや元所属タレント平本淳也氏の暴露本『ジャニーズのすべて』を取り上げている。

アングロサクソン系の米英豪は女性差別や人権問題に厳しく、日本のような同盟国や友好国の動向にも目を光らせている。

イギリスにも「芸能界の捕食者」はいた

BBCのドキュメンタリーは日本の特異性、閉鎖性、後進性を取り上げる傾向が強い。TBSワシントン支局長(当時)に強姦ごうかんされたと告発した伊藤詩織氏を取り上げた「日本の秘められた恥」が放送された時は、日本の#MeToo運動を後押しするなど大きな反響があった。しかし英国にも喜多川を上回る「芸能界の捕食者」が君臨していた。ジミー・サビルである。

前出のガーディアン紙マンガン記者はNetflix(ネットフリックス)のドキュメンタリー「ジミー・サビル:人気司会者の別の顔」(22年)について「サビルは国民を手なずけた。彼はまさにありふれた風景の中に潜む捕食者そのものだった」と解説する。制作者によって丹念につなぎ合わせられた英国社会におけるサビル現象は衝撃的だ。

サビルは英ストーク・マンデビル病院などを支援する慈善活動のため何百万ポンドも集めた。マーガレット・サッチャー首相(当時)はサビルの実行力を称賛し、チャールズ皇太子(現国王)はサビルにパブリック・リレーションズのアドバイスを求め、何年にもわたってサビルと文通していた。「その結果、彼は無敵の存在となった」とマンガン記者は書く。

彼の正体に関するうわさはあったものの証拠がない。サバイバーたちはストーク・マンデビル病院で繰り返し性的虐待を受けていた。BBCのジャーナリストは被害者を見つけ出したが、サビルの死後、11年12月に深夜ニュース番組「ニュースナイト」で放送予定だった番組は編集長によってボツにされ、取材に関わったスタッフはBBCから追い出された。