大手企業を中心に基本給を引き上げるとの報道が続いている。政府の要請で進む“賃上げ”の流れは労働者にとってバラ色か。近著『29歳の教科書』が話題のクロスリバー代表・越川慎司さんは「基本給の引き上げをアピールする企業が、社員の生涯賃金の総額を上げると断言しているわけではない点には注意が必要です」という──。(第2回/全5回)

新卒の初任給引き上げの動きが続く

大手金融機関の三井住友銀行は、2023年4月に入行する新卒の初任給を一律5万円引き上げる方針であることが報じられました。初任給の引き上げは16年ぶりだそうです。

初任給の引き上げについては、昨年あたりから広く話題に上るようになってきました。大手メーカーの日立製作所や東芝でも大卒初任給の1万円引き上げを決定し、バンダイでは初任給を30%引き上げることが報じられています。

一般財団法人労務行政研究所によると、東証プライム上場企業の165社のうち、2022年4月に入社した新卒社員の初任給を引き上げた企業は4割を超え、過去10年間で最高だったそうです。この流れは続いています。

靴と生活費と給与推移グラフ
写真=iStock.com/takasuu
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外的要因に要請された結果の初任給アップ

コロナ対策や円安などが起点となって、世界的に急なインフレが訪れました。

インフレによる生活費の高騰に対して、政府はガソリン補助や低所得者世帯支援などを講じていますが、家計への負担は抑えきれない状況です。

岸田文雄首相は、経済団体や労働組合と連携を強化して、労働者の賃上げを目指しています。

また、労働市場での人手不足で人材獲得競争が激化する中で、各企業も新卒の初任給を上げざるを得ない状況です。