「自分はどこでスイッチが入るのか」を押さえておく

自分が誰かを許せなくなったとき、この人は謝罪すべきではないかという感情が湧いてしまうとき、自分はどういうところでスイッチが入るのか、そのポイントを知って押さえておくのは様々な場面で役に立つだろう。これを自身で認識できるようになれば、自分を客観視して「正義中毒」を抑制することができるようになるはずだ。願わくば、一人一人が、こうした認知的な抑制システムを備えておけるようになるとよいのだけれど……。

許せない、の相手は何も個人だけとは限らない。「こんな広告」「バカなテレビ番組」「ひどいゲーム」「最近の若い連中」等々、ものや制作物などについてその感情が向けられることもある。

暗い場所でスマホを操作する手
写真=iStock.com/gorodenkoff
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こういった感情が湧いてしまったときは、その感情をエスカレートさせるような相手との付き合いを避け、エコーチェンバーのように自分の感情が増幅していく(主としてSNS上の)環境から身を遠ざけ、意見が固まって誰かを責める快感に思考を奪われそうになってしまう前にひと呼吸置いて、「自分は今、中毒症状が出ているかもしれないな」と判断するようにしてほしい。

脳の前頭前野が衰え始めているかもしれない

正義中毒を乗り越えるカギは、メタ認知である。メタ認知とは、前頭前野の重要な機能である、自分自身を客観的に見て、その行動や思考を改めて問い直す能力の事である。さらに、内的に設定されている倫理基準と、外的な情報として得られる倫理基準とに自分の行動と思考を照らし合わせ、「私は今こういう状態だが、本当にこれでいいのか?」と問い直すということをする。こういうことができるのは、前頭前野が働いているからであり、メタ認知が機能しているからなのだ。

残念ながら、前頭前野は成人になってからもまだ成熟に時間がかかる部分であり、しかも加齢に伴って萎縮しやすい部分でもある。脳もあくまで体の一部なので、その部位をよく使っている人とそうでない人とでは機能に違いが出てきてしまう。つまり、簡単に誰かをつるし上げるような風潮に自分の思考を乗っ取られやすい人は、前頭前野が衰え始めているということなのかもしれない。