「豊かな老後」とは一体どんなものか。作家の勢古浩爾さんは「定年本や老後本によく書かれている言葉だが、『豊かさ』の中味は一人ひとりちがう。こうした希望や不安を煽るだけの言葉に騙されてはいけない」という――。

※本稿は、勢古浩爾『脱定年幻想』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

型紙で切り出したシニアカップルを手で守る
写真=iStock.com/AndreyPopov
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偽りの希望の言葉に騙されてはいけない

自分の言葉は自分をしばる。だからできるだけ、ウソはつかないほうがいいのである。適当なこともいわないほうがいい。しかしここでいいたいことは、そのことではない。人をたぶらかそうとする、もっともらしい公の言葉に、騙されないように(しばられないように)ということである。

定年本や老後本を開けば、たいてい「豊かな生活」とか「充実した人生」とか「成長しつづける」などの、偽りの希望の言葉が書かれている。しかし、こういうもっともらしい言葉がじつはよくない。これらはだれもが望むような言葉である。そのための方法を求めて、人は本を読むのである。

だがそのなかに、なにが「豊か」でなにが「充実」なのかが書かれていることは少ない。ほとんどない、といっていい。希望を示すような言葉だけが、しばりとなってわたしたちに残るだけである(それはなにか、を自分で考える人はいるだろう)。

映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』で、ある中年妻が夫にいう。当然、中年男である。「わたしたちはキラキラした人生を送るべきよ」と。あっちもおなじなんだな。「キラキラ」の原語はたしか「スパークリング」だったか。

「こうすれば老後は豊かになる」は本当か

なかには、老後のいまが一番楽しい、なんていう人もいる。わたしはこんなに楽しい老後をおくっている、人生は充実している、あなたもわたしみたいにこうすればいいですよ、というのだろうか。そりゃよかったね、というほかはない。

「いい人をやめれば人生はうまくいく」という人もいる。そんなばかな。人生がうまくいく方法などどこにもないし、それを知っている人など、この世にひとりもいるはずがないのである。

人生に「こうすればこうなる」なんてことはない。それはインチキビジネス書や成功本の幼稚な手口である。だから、こうすれば金儲けができる、成功する、雑談力があがる、老後は豊かになる、人生は充実する、輝く、なんてことはないのだ。

まあ、毎日酒浸りの生活をつづければ、体を壊し、いずれ死ぬぞ、ということはあるだろうが。人生にあるのは「こうするつもり」とか「やってみせる」という意志だけである(もちろん、その意志も大半は通らない)。