日本企業は数多くの優れた技術を生み出してきた。だが、世界市場を席巻できた例は少ない。なぜ残念な失敗を繰り返してしまうのか。徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)より一部を紹介しよう――。(第1回)
ビジネスの会議
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なぜ日本は残念な失敗を繰り返すのか

崩れてきているとはいえ、日本企業には、組織的な知識創造や、あうんの呼吸で理解をしあうハイコンテクストの知といった強みがありました。私たちはそれを持って世界で戦い、イノベーションを生み出し、世界に貢献してきました。

しかし、その裏側では失敗が多かったのも事実です。レジリエンスの強化に当たっては、そのことも認識しておく必要があります。

数多くの残念な失敗にある日本の問題の1つは、強みがあるにもかかわらず、それを発揮しきれずに「中途半端」に終わってしまうことだと著者らは考えています。ビジネスをやっていく上では徹底的に、圧倒的なナンバーワンにならなければ大きな収益を上げることはできません。

組織内の論理やしがらみに邪魔されたり、先を見通す目がなかったりしたために、せっかくのイノベーションを活かしきれずナンバーワンになる機会を逃してしまった例をいくつか見ていきましょう。ここからも学べることがあるのではないでしょうか。そしてやるべきリスキリングの糸口が見出せます。

「FeliCa」は国際規格になれる技術だった

Suicaなどの交通系ICカードには、ソニーが開発した非接触ICカード技術であるFeliCaが搭載されています。

処理スピードが速く正確で、セキュリティも高く、双方向通信が可能です。FeliCaのような技術はNFC(近距離無線通信)と呼ばれるもので、デバイス同士を接触させなくてもかざすだけで双方向の通信が可能です。現在NFC技術は交通系ICカード、クレジットカード、スマホなどに搭載され、日常生活で当たり前に使う技術の1つになっています。

さて、FeliCaは開発当時、その技術の先進性を考えると、決済カードの国際規格として十分にグローバルに広がる可能性があるものでした。ところが、現在クレジットカードの規格で主流になっているのはFeliCaのタイプCではなく、VisaやMasterCardが採用しているヨーロッパ生まれのタイプAやタイプBと呼ばれるものです。

FeliCaは技術としては優れていたものの、ビジネスとして確立していく段階で日本国内での足の引っ張り合い・内輪もめが生じ、その結果国際規格にはなれませんでした。

仮にこのFeliCaの技術が国際規格になり、仮に先見性を持ってFeliCaの技術で未来を見越したビジネスとして確立していれば、FeliCaの技術を搭載したSuicaや「おサイフケータイ」がPayPal、ApplePayやVisaやMasterCardに先立って世界標準として確立され、市場を席捲せっけんしていた可能性があるわけです。このFeliCaのすごさを「再発見」して搭載したのがiPhoneを売っているAppleやAndroidを売っているGoogleであるというのは皮肉な話です。