自民党が「児童手当」に所得制限を設けた経緯

簡単に経緯を振り返りたい。

子ども手当について民主党はマニフェスト(政権公約)に、中学卒業までの子どもについて、親の所得の多寡にかかわらず、1人あたり月額2万6000円(2010年度は1万3000円)を支給するとしていた。

しかし自民党は、子ども手当を「バラマキ」と激しくこき下ろし続けた。2010年参院選で民主党が大敗し「ねじれ国会」が誕生、翌2011年度の予算関連法案が野党・自民党などの反対で成立しない状況に追い込まれると、民主党は予算関連法案成立と引き換える形で、自民党などが求めた「子ども手当の廃止」を認めざるを得なくなった。

当時は東日本大震災の発生から間もない時期。予算関連法案が成立しないことは、政権として許されなかった。

民主党と自民、公明両党の「3党合意」によって、子ども手当は自公政権当時の「児童手当」に改組され、年齢などにより金額に差を設けられた上、年収960万円を超える世帯への所得制限が導入された。当時も民主党の幹事長を務めていた立憲民主党の岡田克也幹事長は「政権交代前の前だけには戻らぬよう、苦渋の決断で受け入れた」と経緯を振り返っている。

自民党が「子ども手当」に過剰に反応した理由

ところで、民主党政権が掲げた多くの基本政策のなかで、自民党が特に「子ども手当」に激烈な反応を示したのは、単に「バラマキ」だったからではない。子ども手当の支給に「所得制限を設けない」という制度設計が「自民党の政治理念として、決して受け入れられない」ものだったからだ。

民主党は子ども手当の創設に当たり「子どもは社会で育てる」ことを掲げた。

子どもは家庭の中だけで、親の「自己責任」で育てられるのではなく、地域や行政から人的にも財政的にもサポートを受けながら、共助や公助という「支え合い」によって育てられるべきだ。そんな考え方だ。だからこそ、子どもを育てるためのお金を親の経済力に頼らず、すべての子ども一人ひとりに分け隔てなく、同じ金額を支給する。所得の高い世帯からは、所得税の累進性を高めるなどして、別の形で負担をお願いすべきだ――。

世帯ではなく「個人単位」で直接手当を支給することで、どんな生き方をしている人にも支援を届ける、という基本原則が「子ども手当」制度の背景にある。こうした政治理念は「高校教育無償化」「農業者戸別所得補償制度」など、民主党の他のジャンルの政策にも一定程度貫かれていた。