「誰かにただ黙ってそこにいてほしいときもありますよね。ひどく落ち込んでいて、何も話したくなければ、それでも構いません。レンタルお母さんは気持ちを汲み取り、寄り添い、適切なサポートをさせていただきます。自分をつくらずに、そのままの姿で話をしていただければ大丈夫です。精神的なサポートが根底にあり、その一環として、希望があれば家事代行などをするとイメージしていただくといいでしょう」

レンタルお母さんは、人の気持ちを察することにも長けているという。

「ある日、40代女性の利用者の方が、ぽつりと言ったんです。『普段、コンビニやテイクアウトばかりで、もう何年も手作りのご飯を食べてない。死んだお母さんのご飯が食べたい』と。特に年末年始の時期は、故郷がやっぱり恋しくなる時期ですからね。そこでレンタルお母さんが、出身の地域に合わせたお雑煮を作ってあげて、利用者の方に喜んでいただきました」

冷えきった心を察するように、温かいお雑煮を作ってくれた。
冷えきった心を察するように、温かいお雑煮を作ってくれた。

なんとも心がジ~ンとなるエピソードではないか。「お母さん」という言葉を聞けば、どこか温かい気持ちになるのが私たち人間だ。

「『お母さん』という存在は、私たちに安心感を与えるのが役割です。やってほしいことは、その人によって違います。掃除や料理など、家事をこなすだけでなく、そばにいて話を聞くのも、役割の1つです。

たとえばひどい失恋をして『自分にはもう価値がない』と絶望に暮れる人にとっては、『あなたはそのままでも価値があるよ』と安心感を与えてくれる。これも、現代人が求めるお母さん像の1つでしょう。

先ほどお話しした通り、『ただ、そばにいてほしい』という依頼も少なくありません。そういう時に寄り添って、心の滋養をしてあげるのが私たちのサービスなんです」

我慢して生きるのはもうやめにしませんか

レンタルお母さんの利用者は男女問わず、年齢層は20代から上は70、80代までと幅広い。ビジネスを一生懸命頑張っている人や、何かに我慢をして、ストレスを抱えている人も多いという。週に1回、月に1回など定期的に頼む人もいれば、辛いことから心を立て直すために、ある一定期間を毎日頼む人もいるようだ。

今、このサービスが求められている背景には、現代人の心を蝕む「孤独」がある、と金澤氏は指摘する。

「今の日本には孤独を抱える人や、孤立する人が増えていると感じます。本来、日本人はすごく精神性の高い民族だと思うんですが、それがどんどん希薄化している。仕事やプライベートで失敗すると、自分がどうしてもダメな人間に思えてしまい、自分を責めるようになる。そういうときに、人間は寂しさを感じるのだと思います。なにかと責任が求められる日本社会ですから、そういう人は増えています。