ある日、隆子さんは仕事で大きなミスを犯し、家でため息をついた。それに気づいたヨシ江さんが、何げなく話しかけてきた。「最近、お疲れじゃないですか?」と、とても包容力のある声だった。

「お母さん」のような存在がいるだけで、どうしてこんなに安らぐのだろう。
「お母さん」のような存在がいるだけで、どうしてこんなに安らぐのだろう。

「この人なら、自分の心を打ち明けても大丈夫そうだなと直感的に思い、私は仕事の話を聞いてもらったんです。ヨシ江さんは、キッチンのシンクをせっせと磨きながら、淡々と話を聞いてくれました。『そう、そんなことがあったの。これまで一生懸命、頑張ってきたんだものね。私にはよくわからない世界だけど、疲れているのは、あなたがよく頑張っている証拠よ』と」

「あなたは頑張っている」、その一言が欲しかったという隆子さん。そう思った瞬間に、力が抜けて、感動の涙がこぼれたという。

「それ以来、ヨシ江さんは私の心の支えとなり、来るのが楽しみになりました。会話をしない日もありますが、定期的に来てくれるだけで、メンタルは安定しています。私の母は九州にいますから、年に1度、会えるか会えないかの距離感です。

『遠くの母さんより近くの業者』ではありませんが、お母さんや、心の支えになる家族をシェアできる時代が今、来ているのだと思います」

「レンタルお母さん」とは、一体何なのか

夫より妻より優しい、母のようなサービス。隆子さんが利用したのは、あくまでも一般的な家事代行サービスだが、なかには「思いやり」の提供を一番に考えたサービスがある。

その名も「レンタルお母さん」。女性スタッフの便利屋を派遣するクライアントパートナーズが展開しているサービスだ。お母さんのような人が訪ねて来て、お母さんのようにさまざまなことに対応してくれるのだとか。

依頼内容は実に幅広い。家の炊事洗濯など家事をやってほしいという依頼にも、話し相手となり相談事や愚痴を聞いてほしいという依頼にも対応できる。ほかにも「母親として結婚式に代理で出席してほしい」「お袋の味を再現してほしい」「息子の運動会に同行してほしい」など、ホームページを見れば「こんなのもOKなの?」というほど、さまざまな依頼に応えているのがわかる。

ただし、通常の家事代行や便利屋とは、一線を画すのがレンタルお母さんだという。同社の代表取締役・金澤瑠璃氏に話を聞くことができた。

「私たちが提供するのは『安心』です。通常の便利屋といえば、力仕事などを想像するかもしれませんが、私たちが主に提供するのは物質的なものではなく、お母さんのような精神的なサポートです。ご希望の依頼に応えていますが、逆に依頼内容は『特になし』でも構いません」

一体どういうことなのか。