共同体を壊さないための「損得勘定」

つまり日本の庶民的共同体の考え方は、かなり実利的なものだということだ。自民党も、最近はそういう風情はあまり表に出さないが、保守的な地元への利益誘導が、有権者の投票動機となっていることに変わりはない。実利主義が政治の主役なのである。

逆に言うと、日本人の実利主義はアメリカ人よりもずっと徹底している。それは、柳田國男や宮本常一の民俗学を読むとよくわかる。彼らが発掘した伝承話の数々には、そういう実利主義で生きてきた昔の人々の論理と情感が色濃くにじみ出ている。

実利主義というと、同意語として「損得勘定」という言葉が思い浮かぶ。実利主義を支えている日本人の損得勘定は、自分たちの生を保障している農村共同体を壊さないための知恵だ。それを判断基準にすることによって、自分たちの生から死までの時間を守り抜くのである。日本人の心情と生活の根底には、鎖国時代に培われた実利主義が延々と生きているのである。

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日清・日露戦争と太平洋戦争の決定的違い

こういう風に考えると、日本が太平洋戦争でうまくいかなかった理由もよくわかる。

太平洋戦争に当っては、満州事変や「シナ事変」を批判する世界に対して、「八紘一宇」や「大東亜共栄圏」などの「正当な思想」を示すことが必要だった。一方、「臣民」に向けては、「神の国の正しさを世界に示す」という大義名分を掲げて、その実現のための「和」を求めた。つまり、実利主義ではなく形而上的な概念に従って戦争を選択する建前になってしまった。

それまでの日本近代史において、戦争は正しいものだった。

日清戦争や日露戦争について、いろいろ意見があるとはいえ、私には実利主義そのものに見える。日清戦争に勝って、日本は清国から台湾などの領土と3.6億円の賠償金を得た。戦費は2.3億円ぐらいだからそれを全部カバーした上で、その後の軍備増強資金も得ることができたわけである。