北海道の企業はなぜ強いのか。日本経済新聞記者の白鳥和生さんは「全国規模で成功する小売に北海道出身企業が多いのは偶然ではない。家具大手、ニトリも例外ではない。これは、社会課題の先進地で、様々な苦境を生き抜いた結果なのだ」という――。

※本稿は、白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

店舗外観
撮影=本田匡
店舗外観

リアル店舗を増やし続ける釧路発の書店がある

札幌市内にあるメーカーの支店に務める女性(32)の談。

「休みの日は午後から出かけます。まず本や雑誌を眺めて買って、まあ、ハワイかディズニーランドのガイドが多いのだけど。そこから中のカフェで本を読んだりして、最後は雑貨や食品を買って帰るともう一日じゅうそこにいるという感じです」

アマゾンなどのネット通販が拡大する中でもリアルな店舗にこだわる書店がある。

この女性も通っているのが、釧路市に本社を置くリライアブルが展開する、書籍・文具販売を中核とする大型複合店「コーチャンフォー」だ。

5000平方メートルを超える広さの売り場を構えた圧倒的な品ぞろえが最大武器。さらに「プラスα」の機能提供で顧客をひき付ける。

高齢者や子供でも歩きやすいようにと配慮したワンフロアでの郊外出店が特徴で、コーチャンフォーを道内中心に8店舗展開する。札幌市北区にある同社最大の「コーチャンフォー新川通り店」の売り場は約1万平方メートル。書籍は約100万冊、文具は約20万品目超を店内で販売する。

全国的に地域の書店は廃業が相次いでいる。

「欲しい本を指名買いするネット通販に対し、店頭でおもしろそうな本に出会ってもらう。店で商品を買うわくわく感を味わえるようにしたい」と佐藤暁哉社長は話す。

ネットの攻勢を逆手に取り、店に来ないと味わえないリアルならではの魅力アップを急いできた。

成城石井と組んで東京・稲城やつくばにも新店

話題の作家のサイン会など大型書店で開催することが多いイベントはもちろん、リラィアブルが独自に売り場の魅力を発信し続ける取り組みの一つが、販売実績のランキングに基づいた書籍の陳列だ。

大型書店ではよくあるが、そのランキングは優に100位を超えるきめ細かさ。文庫、新書、コミック、雑誌……店員が前週の販売をもとにランキングを集計し、各ジャンルで区分けした棚を毎週月曜に入れ替える。

店名のコーチャンフォーは4頭立ての馬車を指す。書籍、文具、音楽CD、飲食店の4業態を同じ店内で手がけることからそう名付けた。

書籍をはじめ主要4業態に次ぐ新ジャンルに位置付けているのが、2018年春に始めた食品販売だ。

「コーチャンフォーマルシェ」と銘打ち、売り場一角の70~130平方メートルのスペースに専門コーナーを設置。成城石井から仕入れたワインをはじめドレッシングやジャム、菓子類などのほか、佐藤暁哉社長を筆頭に各店舗の担当者ら約10人で組織した「マルシェ開発チーム」が道内企業とコラボしたオリジナル商品も並べている。

2022年3月期の売上高は141億3600万円。日経MJ専門店調査によると、書店業界14位に付ける。2022年10月には茨城県つくば市に「コーチャンフォーつくば店」を開業した。関東では若葉台店(東京都稲城市)に次ぐ2店舗目。本を売るだけという従来の枠にとらわれず、書店の可能性を追い続けている。