「直感を信じなさい」

そのころ私は、R.H.メイシー社の先駆的な取締役にして、当時のGEの取締役会にも参加していたG.G.マイケルソンに、意見を求めるために電話をした。

マイケルソンはすごい女性だ。何枚もの壁を打ち破り、当時はほぼ男性しかいなかったコロンビア大学ロースクールに通い、デパートチェーンのメイシーズのためにチームスターズなどの労働組合のリーダーたちを相手に交渉し、彼女の助けを求める企業の取締役会で、多くの場合唯一の女性として力を尽くしてきた。

彼女は厳しい環境で育った女性だ。母親が結核を患い闘病生活を送っていたため、何度か孤児院で過ごしたこともある。その母親はマイケルソンが11歳のときに亡くなった。厳しい嵐を乗り越えてきた人物として、彼女ならしっかりとアドバイスしてくれると、私は信じていた。

GEが何を優先して行うべきかずっと考えていると言う私に、彼女は力強く言ってくれた。「あなたは何も間違っていない。直感を信じなさい」。その言葉があまりにもありがたかったので、私は言うつもりのなかった事実までも告白してしまった。「本当のところ」、私は彼女に言った。「この1週間ずっと吐きそうだったのです」

GEを守るために最も重要な顧客をまず守る

9.11からの数日は混乱が続いた。アメリカの空は商業飛行を再開できるほど安全ではないとみなされたため、私の経営陣はさまざまな都市で足止めを食らった。私はシアトル、CFOのキース・シェリンはボストン、GEの副会長で以前はCFOだったデニス・ダマーマンはパームビーチ、そしてボブ・ライトはロサンゼルスにいた。そこで私たちは、6時間ごとに電話会議をすることにした。

直面するすべての問題を把握しつづけるのは至難の業だった。GEのフライトシミュレーターを使っていた顧客に、アタという名の人物がいた。私たちは、この人物がノースタワーにアメリカン航空の飛行機を激突させたハイジャック犯のモハメド・アタと同一人物なのか、確かめなければならなかった。確認するのに時間がかかったが、ありがたいことに同じ人物ではなかった。

次に、7ワールドトレードセンターの再保険がどの程度の損害につながるのか、見極める必要があったが、これについては10億ドルの評価損と考えた。

また私は、亡くなったGE社員の遺族に声をかけ、健在だった社員には励ましの電子メールを書いた。GE内で全社員宛にメールが送られたのは、これが初めてのことだった。私は祖国を、会社を、家族を、同時に案じた。やるべきことのリストは恐ろしい長さになったが、同時にそれが私を奮い立たせた。

GEにとって最も重要な顧客を守る、私はそう心に決めた。最も重要な顧客とは、私たちの航空機エンジンを買い、飛行機をリースするアメリカの航空会社のことだ。飛行機に乗ると離陸前に、緊急時にはまず自分のマスクを着用してからまわりの人を手助けするようアナウンスされるが、私はその逆のパターンを選んだ。GEを守るために、まず航空会社の命を救うことにしたのだ。だが、のちにわかったことだが、それはとても難しいことだった。