1週間で1.2兆ドルが失われた

テロ攻撃から48時間以上がたった木曜日の夜、私はようやくコネチカットの自宅に戻ることができた。妻と、ハイスクールに入学したばかりの娘に再会できて、ほっと胸をなで下ろした。ただでさえ、私がGEヘルスケアを率いていたころに住んでいたミルウォーキーから見知らぬ土地への引っ越しで、娘は不安になっていた。そこに今回の悲劇が起こったのだから、本当につらかったに違いない。

テロ攻撃の6日後の月曜日、9.11以来閉鎖されていた株式市場が再開した。その週の終わりの時点で、ダウ工業株30種平均は14.3パーセント下落した。当時、1週間の下落ポイントとしては過去最大だった。価値に置き換えると、1.2兆ドルが失われたことになる。私は平静を保つよう心がけたが、GEとて無傷でいられるはずがなかった。

株式市場 - 青いディスプレイ上で下る矢印グラフ
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最大株主を含む数多くの株主から、「GEがそこまで保険業に入り込んでいたとは知らなかった」などという声が聞こえてきた。私は、「隠したつもりはない。我々の株を買う前に、なぜもっとよく調べなかったのか」と反論したくてうずうずしたが、じっと無言を貫いた。

人は最も困難な時に救いの手を差し伸べた人を決して忘れない

毎朝ジムのステアクライマーに乗って、昇り降りを繰り返すことで、自分が正気であることを確かめようとした。『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』などの主要新聞にGEとして全面広告を出すことにしたのも、平静を失っていないことを示すためでもあった。

その広告のなかで、真剣な表情をした自由の女神像が片腕の袖をまくし上げて、今にも台座から降りようとしている。その下にはこう書かれていた。「さあ、袖をまくし上げて取りかかろう。ともに前進して乗り越えよう。決して忘れたりしない」

飛行機の運航が平常通りのスケジュールに戻ってからも、利用しようとする人はほとんどいなかった。航空会社は傷つき、その痛みがGEにも伝わった。本稿を書き終えた2020年、コロナウイルスが同じように航空業界を直撃した。おそらく今回のほうが衝撃は大きいだろう。当時も今も、私は自分たちの問題を解くだけではなく、同時に顧客にも手を貸すことが重要だと信じている。人は、最も困難な時に救いの手を差し伸べてくれた人を決して忘れないものだ。