犠牲バントよりヒッティングのほうが有効

このような議論の中でよく聞くのが、「まったくヒットが期待できないような打者にもバントをさせずに打たせるのが有効だというのか」という声である。

では、どの程度の打者であれば、犠牲バントのほうが有効になるのだろうか。

この問題は「犠牲バントの損益分岐点」と名づけられており、さまざまな計算がなされている。

ここでは、その簡単な求め方について説明しよう。

まず、無死一塁から犠牲バントという作戦を採用した場合の得点期待値を理論的に求めてみる。

無死一塁(犠牲バントをする前)の得点期待値 0.790
1死二塁(犠牲バントして成功)の得点期待値 0.636
1死一塁(犠牲バントして失敗)の得点期待値 0.461

また、2021年シーズンのNPBでの犠打成功率は83.6%であったことから、それぞれの場合の得点期待値を足し合わせて、

(0.636-0.790)×0.836+(0.461-0.790)×(1-0.836)
=-0.183

となる(なお、犠牲バント失敗での併殺はないものとして計算している)。

つまり、無死一塁からの犠牲バントによって得点期待値は0.183下がる。

無死一塁で犠牲バントをせずにヒッティングしたときの得点期待値がこれを下回ってしまう出塁率の打者であれば、打たせず犠牲バントさせたほうがよい、ということになる。

では、その出塁率とはいかほどだろうか。

ここでは、ヒットを打っても二塁打以上の長打にならないという想定で、無死一塁での併殺打率を8.9%として計算してみる。

無死一二塁(出塁成功)での得点期待値 1.307
2死走者なし(併殺打)での得点期待値 0.077

また、凡打の場合の塁状況は1死一塁と1死二塁の2通りとし、その比率は1:1であるとする。

出塁率をxとすると

(1.307-0.790)×x
+(0.636-0.790)×(1-0.089-x)×0.5
+(0.461-0.790)×(1-0.089-x)×0.5
+(0.077-0.790)×0.083
<-0.183

という不等式ができる。これを満たすようなxを求めると、

鳥越規央『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)
鳥越規央『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)

x<0.127

となる。

したがって犠牲バントの損益分岐点は、ざっくり出塁率1割2分7厘ということになる。

2021年のNPBにおいて50打席以上の打者でこれを下回った者は、3名しかいない。

しかも、そのうち2名は投手である。

よって無死一塁という状況ではヒッティングのほうが、得点期待値を上昇させるという意味においては採るべき戦術である。

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