「中国の景気がよい」のエビデンスは何か

なお、先のエピソードで登場した、ひろゆきさん自身も、「エビデンスがないじゃないですか?」と相手によく追及しますが、私も議論する相手に、「エビデンスは何ですか?」と聞くことは非常に多いです。

実際、ひろゆきさんが私に突っ込まれた理由のひとつに、この「エビデンスの甘さ」があります。

2回目の対談でひろゆきさんは、「日本の景気が悪いのは、中国経済が台頭したからだ」と主張しました。

この主張を支えるには、「中国経済の景気がよい」というエビデンスがまず必要になります。しかし、「中国の景気がよい」とするエビデンスのひとつとして彼から上がってきたのは、「中国には携帯電話の組み立て工場が大量にあるから」でした。

携帯電話は世界中で需要がある商品だからこそ、その製造拠点がある中国経済は今後もずっと活力を持つはずだと、ひろゆきさんは力説する。

でも、「携帯電話の組み立て工場が大量にある=景気がよい」というのはエビデンスとして成り立つのでしょうか?

経済統計や経営学の常識を無視している

大概の携帯電話の組み立ては、中国で行われているのが事実として、そのロジックで言うなら中国以外の国の経済はすべて経済が不調になるのでしょうか? 世界経済は中国の一人勝ち状態なのでしょうか? さすがにこれは言いすぎですし、経済統計も無視しています。さらに、ここへきて中国では不良債権問題が悪化しており、決して景気がよいとは言い切れない状況です。

中国の紙幣
写真=iStock.com/claffra
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また、いくら中国に携帯電話の工場がたくさんあるといっても、それは組み立て工場です。組み立て工程というのは、モノづくりのなかで最も利の薄い分野です。一番儲かるのは設計と販売。これは経済学というか経営学の常識です。携帯電話づくりで一番利の薄い工程を握っている国が世界の覇権を握る? なんか変ですよね。

ちなみに、現時点でも、アメリカは国土内に組み立て工場は少ないです。では、アメリカは携帯電話の組み立て工場がないけれどもオワコンですか? さすがにこれも違うでしょう。

そう考えると、「携帯電話の組み立て工場があるかないか」だけをもって経済の善し悪しを語るのは、エビデンスとしては非常に不適切だとわかります。よって、「中国に携帯電話の組み立て工場が大量にある=中国の景気がよい」というロジックは成立しません。