取締役執行役員の八千代工場長、久保啓介は「若鶏に変えました」と言っている。

八千代工場長の久保啓介氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
八千代工場長の久保啓介氏

「最初の頃は年をとった親鶏を使っていたのですけれど、それだとやっぱり肉が固い。お子さんたちが食べるとなると、やわらかいほうがいいので、戦後、アメリカから入ってきたブロイラーを使うようになりました。100%国産の若鶏です」

若鶏を使いだしてからも進化は続く。長年かけて添加物、卵や乳製品、ショートニング、コショウ、チキンブイヨン、水あめなどをなくした。それでも消費者に同じ味と認識させるのは技術陣の努力があるからだ。

「引き算の哲学」がヒット商品を育てている

執行役員、統括マネージャーの伊藤幸一郎は言う。

「当社のおべんとクンは80%を超えるリピーターのお客さまに支えられています。POSデータを分析すると、上位購入者が8割以上いるというのが特徴で、それゆえ味を大きく変えるとリピーターのお客さまを裏切ってしまうことになる。それで味付けは大きく変えられません。そこで、材料を安心、安全なものにして、さらに添加物はなくし、調味料も減らしていっています」

おべんとクンを食べるのは子どもたちだ。子どもたちのことを考えて、添加物を排除したのである。

ヒット商品を出した会社だからといって決して順風満帆、前途洋々ということはない。ヒットの法則を詳しく見ていくと、そこには経営の力がある。

石井食品であれば真空包装の技術が出発点だった。その技術を生かしてソース付きハンバーグ、ミートボールを出すことができた。それ以降は経営判断だ。時代環境を見据えて無添加調理を導入し、調味料などを減らしていった。引き算の哲学が、ヒット商品の育て方として成功した。

課題があるとすれば次の時代に向けたヒット商品のリリースだが、これはアイデアや広報宣伝の問題ではない。経営者がどういった方向に会社を向けていくかを決めることだ。そうでないと、なかなかおべんとクンを超えることはできない。ヒット商品の誕生と進化に大きく関わっているのは経営そのものだ。

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