どうやって「安くて美味しい」を実現しているのか

1つ目の理由は、仕入れた魚の全ての部位を捨てることなく使い切ることです。たとえば、スシローのメニューに、締めに顧客が頼む「コク旨まぐろ醬油ラーメン」(385円)があります。このラーメンは魚介でダシを取っていますが、ダシとして抽出しているのは、寿司には使えないメバチマグロの頭の部分です。

また、ラーメンの中に具として入れているまぐろカツも、メバチマグロの筋が多い部分を活用して作ったものです。このように、スシローでは仕入れたマグロの全身を無駄にせず隅々まで調理することで、高い仕入れ価格を吸収しているのです。

2つ目は、寿司を提供する工程においてオペレーションの効率性を高めることです。顧客に寿司を提供する一連の工程の中で、ほぼ全てを自動化しています。たとえば、寿司に使うシャリ玉は、炊飯、酢飯、握りまでの全ての工程を機械が超高速で仕上げています。細巻きも自動で海苔が巻かれ、皿も機械が全自動で洗浄して色ごとに分けてくれます。

優先度によって自動化と手作業を分担している

このように、スシローでは機械による自動化で効率化できるところは徹底して行っていますが、寿司ネタだけは優先度を美味しさに置いているため、ネタの鮮度を保つ必要性から職人が店の厨房でさばいています。

3つ目は、魚の仕入業者との関係を強化することです。仕入業者とのつながりを強めることは、より鮮度の高い魚の流通を可能にしてくれます。たとえば、三重県にある尾鷲物産は、スシロー向けにはまちなどを養殖・加工する会社です。

スシローは魚の仕入業者として、この会社と20年来取引をしてきましたが、2021年に資本参加して関係をより強固なものにしています。こうした仕入業者との関係強化は、スシローの仕入れにおける交渉力を高めることになり、結果として収益性を高めることにつながります。

東京・築地市場でのマグロ
写真=iStock.com/urf
※写真はイメージです

メニューをたくさん作るよりも「定番」に特化する

スシローは、競合他社がメニューのバラエティー化に邁進する中、こうした路線とは一線を画し定番寿司メニューの強化に取り組みました。これは、「自社の競争環境の範囲をどこに置くか」という競争戦略の視点から、とても意味深い意思決定に当たります。

スシローは、寿司以外のメニュー強化を放棄することで自社が取り組む競争範囲を寿司メニューに絞り込みました。さらに、寿司メニューの中でもまぐろやはまちなど定番寿司メニューに絞り込むことにより、競合する企業がほとんどいなくなる寡占状態を作ったのです。