ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、北朝鮮がロシアに急接近している。元外交官で作家の佐藤優さんは「北朝鮮はロシアとの関係強化を図り、この戦争を自国の利益のため最大限に利用している」という――(連載第23回)。
2019年4月25日、ロシア・ウラジオストクにあるルースキー島の極東連邦大学キャンパスで行われた会談で、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩委員長が握手した。
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2019年4月25日、ロシア・ウラジオストクにあるルースキー島の極東連邦大学キャンパスで行われた会談で、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩委員長が握手した。

北朝鮮はウクライナ戦争を最大限に利用している

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長引き、食糧やエネルギーを巡って世界が疲弊する中で、漁夫の利を得ている国があります。北朝鮮です。ロシアとの関係強化を図り、この戦争を自国の利益のため最大限に利用しているのです。

7月13日に北朝鮮は、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認すると発表しました。このふたつの地域を独立国家として承認した国は、ロシアを除けばシリアに続いて2つめです。ウクライナは反発して、即座に北朝鮮との断交を発表しました。

北朝鮮は、ウクライナと軍事面で協力関係にありました。ミサイルのエンジンなどで、支援を得ていたのです。したがって両「人民共和国」を承認すれば、ウクライナから外交関係を断絶されることは予想できました。

ロシア側から、独立承認を働きかけた形跡は見受けられません。つまり北朝鮮は、両「人民共和国」を承認して外交関係を樹立することに、ウクライナとの断交を上回るメリットがあると計算したのです。

北朝鮮の稼ぎ頭は「建設労働者の派遣」

北朝鮮の計算とは何か。ドネツクとルガンスクがビジネスの場になると読んだことです。ロシアの評論家ドミトリー・ヴェルホトゥロフ氏は、こう語っています。

現場監督の間には、「タジク人が1週間ですることを、北朝鮮人は半日あれば十分だ」という諺さえ伝えられていた。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の都市では、住宅や公共の建物がひどく破壊された。それらの復興には、大勢の労働者が必要とされている。

基礎工事は、ロシアからの作業班が効率的に行うことができる。手間のかかる建物の内装は、北朝鮮建設労働者の専門だ。したがって、ドネツク人民共和とルガンスク人民共和国では、北朝鮮労働者が緊急に必要とされている。(8月16日「スプートニク」日本語版)

北朝鮮の稼ぎ頭は武器の輸出だと思われていますが、実は建設労働者の派遣です。特に中東には、たくさん派遣されてきました。アメリカの人工衛星に四六時中見張られている北朝鮮は、地下住宅の建設に関して高い技術をもっています。そのため、中東の独裁国家や軍事政権の幹部に、人気があります。

国連に加盟していない両「人民共和国」は制裁の抜け道になる

戦禍で荒廃した両「人民共和国」の国土再建に手を借す国はロシアしかありませんから、建設労働者を大量に派遣すれば、外貨を得ることができます。国内にいれば食うや食わずの労働者を派遣して、1人が1日2ドル相当のお金をもらえれば、大変な外貨の獲得なのです。

ここで得られる外貨とはロシア・ルーブルですが、ルーブルがあれば、北朝鮮が必要とする食糧や石油や医薬品をロシアから買うことができます。

北朝鮮の労働者の受け入れは、国連による制裁の対象です。しかし国連に加盟していない両「人民共和国」では問題になりません。制裁の抜け道になるのです。