「戦前・戦後の偉人伝」という勝ちパターン

このところ私のもとには、さまざまなメディアから「『ちむどんどん』の評価を聞きたい」という問い合わせが相次いでいる。

その中には批判的なコメントが欲しい編集者も、「褒めるところを挙げるとしたら」と逆をゆく編集者もいるが、私が必ず答えているのは「朝ドラとしては特に良くも悪くもない普通の作品」という言葉。あえて批判的に言うとしても、「毒にも薬にもならない作品」という程度で、わざわざ熱を上げて怒るほどのものではないと感じている。

朝ドラは2000年代前半まで30%に迫る世帯視聴率を叩き出していたが、2000年代後半に入ると、貫地谷しほり主演「ちりとてちん」、榮倉奈々主演「瞳」、三倉茉奈・佳奈主演「だんだん」、多部未華子主演「つばさ」と4作連続で10%台まで落ち込み、数字の低迷以上に「つまらない」などと内容を疑問視されていた。

その後、世帯視聴率は開始時刻が8時15分から8時に前倒しされた2010年の松下奈緒主演「ゲゲゲの女房」でV字回復。以降は、尾野真千子主演「カーネーション」、吉高由里子主演「花子とアン」、波瑠主演「あさが来た」、高畑充希主演「とと姉ちゃん」など、“戦前・戦後の偉人伝”を軸にした作品が放送され、高視聴率と支持を得続けてきた。

一昨年秋から昨年春に放送された杉咲花主演「おちょやん」まではその“戦前・戦後の偉人伝”路線だったが、この路線を10年にわたって放送したため、主人公のモデル探しや視聴者の「飽き」などの観点から、これまで同様のペースで続けていくことは難しい。

そこで東日本大震災を扱った清原果耶主演「おかえりモネ」、3世代100年を描いた上白石萌音・深津絵里・川栄李奈主演「カムカムエヴリバディ」というイレギュラーな2作を経て、現在の「ちむどんどん」に至っている。

つまり「ちむどんどん」は、「いったん“戦前・戦後の偉人伝”から離れようとしている中で生まれた作品」ということ。時代背景とモデル不在という意味では、V字回復した2010年代より低迷が叫ばれた2000年代後半の作品に近いのだが、たとえば前述した「瞳」「つばさ」と比べたとき、決して脚本・演出のレベルが低いとは思えない。

「ちむどんどん」だけ出来が悪いわけではない

平たく言えば、かつてはこんな感じの朝ドラはたくさんあったのだ。そもそも時代背景だけを取ってみても、復興後の昭和・平成の物語は、大きな出来事が次々に起きる戦前・戦後よりも難易度が高いだけに、「『ちむどんどん』だけが飛び抜けて出来が悪い」と決めつけるのは一方的な見方ではないか。

ちなみに10月スタートの次作「舞い上がれ!」も、主に平成が舞台の物語で主人公のモデル不在だが、次々作「らんまん」と次々々作「ブギウギ」は、再び戦前・戦後の偉人伝に戻る。やはりこちらのほうが手堅く数字を稼げるほか、“反省会”という苦境に陥るリスクが少ないのかもしれない。